唐渡千紗 株式会社左右社 2021.3.28
読書日:2023.8.9
自分には何の取り柄もないと思っていたシングルマザーがルワンダでタイ料理屋を開くことに決めて、悪戦苦闘する本。
「自転車に乗れるようになったら乗ろう、ではいつまでたっても自転車に乗れない」ということを信条にしている唐渡さんなので、何事も、えいや、と決めてしまうらしい。会社の先輩のマリコさんが暮らしているルワンダを訪ねていいなと思い、タイ料理がいいと思う、というマリコさんの言葉であっさりタイ料理屋「アジアンキッチン」を開くことを決めてしまう。このとき、唐渡さんには外食の経験もなければ、タイ料理の作り方も知らなかったというのだから、恐れ入る。移住したのは2015年のことである。
で、唐渡さんが日本で何をしていたのかと言うと、リクルートに勤めるエリートだったのだ。いやー、むちゃくちゃ優秀じゃないですか。そもそもどうやったらリクルートに入れるのか、その辺を聞きたいくらいだ。いや、入りたいと思ったことはないんですけどね。
でも唐渡さんは、リクルートではあまり輝けなかったふうだ。唐渡さんにはちょっとクリエイティビティに関して他の人と劣るところがあったらしい。いや、この基準は、あくまでもリクルート基準の話ですが。なにしろ、あの会社はクリエイティビティに溢れる人材がこれでもかというくらいいる会社、ということになっているはずなので。
ルワンダを訪れて、外食産業がほとんどないことを実感して、特別なクリエイティビティがなくても、日本の手法を持ち込むだけで成功できると確信したらしい。
というわけで、タイ料理屋をやることにしたんだけど、何しろビジネス慣行も、国民の気質もまったくちがう国で、まずは開店にこぎつけるまでが大変。店の内装の代金を前金でぼられた上に何もせずに逃げられたり、言ったとおりに工事が行われないので毎日監督しなくてはいけなかったり、ビザから開業許可を得るまでの役所関係の書類を整えるのが大変だったり、さらにはメニューの開発をしなくてはいけなかったり(そもそも食材が手に入らないので、現地のものでなんとか代替しなくてはいけない)、従業員の教育も行わなくてはいけない。そこにさらにシングルマザーとして息子のミナト君だってあまりほったらかしにするわけにもいかない。
うーん、ちょっと考えるだけでも、大変すぎる。
なんとか開業にこぎつけても、従業員とのコミュニケーションには苦労させられる。唐渡さんが当たり前と思っていることと従業人の当たり前が一致しないのだから。やるように言わないとやらないし、やっていけないと言わないとやってしまうことの続出だ。電子レンジが汚れているからと、分解水洗いして、組み立てたら壊れた、という話にはさずがに笑った。冷蔵庫も水洗いする勢いだ。
どうやってもうまく行かず、もうやめようと決意した2017年頃、なんだかうまく回り始めたのだという。創業話のあるあるだ。唐渡さんがずっと現場に張り付かなくても、従業員だけで回るようになった。そんなわけで、スペイン人の新しいパートナーと2人目の子供を作る余裕もできたようで、2018年唐渡さんは日本で出産のために日本に帰国できたそうだ。
もちろん、この本では、ルワンダの社会のことも述べられる。いまは治安もしっかりして、前向きな社会になっているルワンダだが、かつては大虐殺の事件が起きた国なのだ。従業員は子供の頃にそれを経験した人たちなのである。フツ族がツチ族を虐殺したということになっているが、実際には民族も関係なく殺し合っていたというのが当事者の実感らしい。いまでは、相手にツチ族かフツ族かを直接聞くのはタブーになっているのだという。そして虐殺のことを忘れないための追悼週間のようなものも設けられているそうだ。
この本は、そんなふうに店が
なんとかうまく回り始めて、コロナパンデミックの危機も乗り越えて頑張っているところで終わっている。いまでは自分らしさが表現できたと確信できているようだ。
唐渡さんのことは「超加速経済アフリカ」で知りました。この本では、確か「アジアンキッチン」はチェーン展開していて、4店舗経営していると紹介されていたと思う。(間違っていたらごめんなさい)。
その後どうなったのか。ネットで検索してみたが、2023.7.19の段階では、どうやら唐渡さんは子供の教育を考えて、日本に帰ることにしたらしい(https://youtu.be/tjV9cc1eWQg)。アジアンキッチンは株式を譲渡されるようだ。しかし、ルワンダ愛は変わっていないらしいから、いつかはルワンダに戻るんだろう。とはいえ、えいや、の人だから、まったく別のことに挑戦するような気もするけどね。
★★★★☆