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非正規公務員のリアル 欺瞞の会計年度任用職員制度

上林陽治 日本評論社 2021.2.25
読書日:2023.7.26

民間以上に悲惨な雇用実体である非正規公務員のリアルな状況を報告した本。

そもそも非正規公務員は民間の法律が適用されず、その結果、民間以上に悲惨な状況だと聞いていたが、この本を読む限り、想像していた以上にひどい。これはほとんど人権侵害のレベルではないか、という気すらする。

いまや公務員の3人に1人は非正規なんだそうだ。すでに非正規は、彼らがいないと業務が止まってしまう基幹的な存在である。しかし、その年収は正規職員の3分の1しかない。そして何年働いても給料は上がらない。継続的に働いていないことにするために、364日で解雇して、1日後にまた雇い直すということもするのだという。ほとんど冗談のような世界である。

国が地方の非正規公務員のために予算をつけても、その分地方財政から支給する分を減らして、結局、給与は変わらなかったという。それどころか、なんの説明もなしに給与が下げられることもあるのだという。

雇い止めが世間で問題になると、わざわざ公募を行い、長年働いていたほうを落として、新人を雇うようにしたりする。こんなことをわざわざするのは、本人の能力が低かったから雇わなかったという体裁を整えるのである。

こうして、ハローワークで失業者の世話をしていた人が次の日には自分が失業者になって窓口の反対側にいたり、生活保護の仕事をしていた人が次の日には自分が生活保護の申請をするというブラックジョークが発生する。

よく分からないのは、専門的な知識が必要な仕事ほど非正規化し、その結果として低い給与に甘んじなければ行けないという実体である。たとえば図書館の司書である。いまではほとんどの司書が非正規に置き換えられている。彼らを監督するために、正規職員が送られてくるが、そもそも彼らはまったく図書館の専門的な業務について知らないので、実際には非正規の司書が自分たちですべてを計画し、仕事を管理している。

世間では専門的な知識をもつ高度な人材ほど給与が高くなるんじゃなかったのか? しかしそうなっていない。(ちなみにこういう考え方自体そもそも幻想なので、注意が必要だ。なぜならいくら専門的な知識を持っていても、潤沢な供給があるような職業なら収入は安くなりがちだからだ。収入が高くなるには、専門化するにしても、代替が不可能なほど高度化する必要がある。)

というようなことが、この本には延々と書かれてある。暗い気持ちになったが、次のようなことを考えた。

ひとつは、新自由主義はやっぱり間違っているのだろうか、ということだ。新自由主義的な考え方というのは、民間でできることは民営化し、国や自治体の役割を減らして行き、社会を効率化するという発想だ。イギリスのサッチャーアメリカのレーガン、日本では中曽根以来の考え方だ。この考え方では、福利厚生関係の予算を減らす傾向がある。

わしは新自由主義の世界で成長してきたので、この考え方を完全に否定するものではないが、しかしエッセンシャルワーカーの給与をあまりに下げすぎると、社会自体が劣化して、持続不可能な社会になってしまう。ほぼフルタイムで働いていて、他の仕事との掛け持ちもできないような状況で働かせる場合は、個人の尊厳が保てるくらいの給与と安心を与える必要がある。

もう一つ考えたのは、このような非正規たちはなぜ団結しないのだろうかということである。端的には、なぜ非正規専門の労働組合を作らないのか、ということである。すでに公務員の3分の1を占めていて、彼らなしには業務が回らないのだから、団結すれば大きな影響力を持てるだろう。

公務員は労働組合を作ってはいけないんでしたっけ? たとえそうであったとしても、ここまでひどい状況だったら、そんなのは関係ない。団結し、ストライキをし、国会の前でデモをすべきである。

わしはどちらかと言うとリバタリアン的で、自由主義的な発想をする人間だが、このような搾取的、奴隷的な扱いを、政府や自治体が行うことには納得できない。なにしろ、わしが目指している社会は、基本的な衣食住が無料で提供される豊かな世界なんだからね。

★★★★☆

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