「ナラティブ経済学」を読んでいるうちに、いま日本で一番強い経済的なナラティブといえば、デフレのナラティブではないかという気がしてきました。
1990年代、バブルが崩壊したときに、多くの企業が苦境に立たされました。リストラが普通になり、就職氷河期が訪れ、人々は失業の恐怖に怯えました。
この結果、「仕事があるだけまし」、「給料がカットされても仕方がない」、などという賃金デフレのナラティブが続き、労働分配率は下がり続けました。それなのに、税金や社会保障費は上がり続け、ますます人々の生活は貧しくなりました。
人々は値段には敏感になり、少し値上げをすると途端に売上が下がるということが小売の常識になりました。人々の給料は上がらず、物価もあがらないデフレスパイラルが起きました。ランチはワンコインが常識になりました。
他の国にインフレが起き、日本だけデフレだったので、値段や給料に他国と差ができ、日本はだんだん貧乏になっていきました。
しかし、日本が年々貧乏になっていったことは、それほど問題になりませんでした。日本人は外国にいかなくなり、日本にいる限り、みんな同じだったからでしょう。値段が下がっているから、かわりにお得になった日本に外国人が押し寄せるようになりました。
さて現在2022年の話です。このところ、エネルギーや半導体不足、物流の逼迫に円安が重なって、スタグフレーションの様相を呈しています。それでも、諸外国と比べて日本のインフレの程度は低く、デフレのナラティブを払拭できるかどうか余談を許しません。
しかしながら、わしは、近々、日本はデフレのナラティブを終わらせると見ています。その理由は、今後賃金が上昇することが確定的だから、と思うからです。
去年から、他の国の賃金が上がり続けているのに、日本の賃金はずっと横ばいになっているグラフが、何度テレビに出たでしょう。このことは経済に詳しい人には当たり前の事実でしたが、いまでは多くの人がそれを知るようになりました。
そしてもっとも衝撃的だったのは、購買力平価でみた一人あたり年収が韓国に抜かれ、名目でもあと数年で抜かれそうだということが知れ渡ったことです。
中国にGDPで抜かれても、それは国の人口が違うから仕方がないと考えることができました。しかし、韓国に一人あたり年収で抜かれることは、国民感情的にも許されないのではないでしょうか(苦笑)。このままでは、日本を貧しいままにしておくことに対する政府や経済界への怒りが、国民の間で湧き上がる可能性があるような気がします。
このことは、さすがに政治家にも経済界にも、これはまずい、という感情を引き起こしたように思います。
きっと下がり続けている労働分配率はあがる方向に転換するでしょう。そうなれば、良いインフレが起こり、デフレにまつわるナラティブは消えていくのではないでしょうか。
そういうわけで、デフレ・ナラティブの払拭に楽観的なのです。まあ、わしはいつも楽観的で、その点を子供にも笑われるんですけどね。(苦笑)。