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全裸監督 村西とおる伝

本橋信弘 太田出版 2016.10.27
読書日:2020.7.26

AVのレジェンド、村西とおるの多分一番詳しい評伝。ネットフリックスで山田孝之の全裸監督を見て、爆笑。で、本書を手に取った次第。

本書の中でも述べられているが、村西とおるはあらゆる面で過剰。一番目立つのはあの喋り口。応酬話法と言うんだそうだが、英語の百科事典、エンサイクロペディアの営業を始めた時に叩きこまれたそうで、ああ言えばこう言う式の、絶対あきらめない説得話法のことなんだそうだ。(ドラマでは都合上、英語の営業は北海道で行っていたことになっているが、実際にはこの会社は新宿にあり、村西は全国を飛び回っていた)。

この応酬話法はのちのちいつでも有効だったそうだ。AVで素人の女性を出演させるときにもこの応酬話法がさく裂した。何しろ、本番を承諾するまで諦めずに5時間以上も熱を込めて説得するというのだから。根負けして承諾するというよりも、熱の乗り移る感じみたいに承諾したのだろう。

この応酬話法がほぼ村西とおるの人生観に凝縮されていて、こう来たらつぎはこれ、これをやったら次はこれ、と次々と新しいコンセプトを開拓し続けた。有名な駅弁スタイルはもちろん、顔面シャワーも村西の発案だった。男優がカメラを持つハメ撮りもそうだ。もちろんビジネス的にも拡大一辺倒で、AVの衛星放送にも目を向けて投資していた。一方、経営者、管理者としてはまったく不適切で、最後には社員によるAVテープの横流しも常態化して、ついには村西とおるのダイヤモンド映像は破綻してしまう。

本の中にも書いてあるが、入ってくる以上に使っているのだから、破綻するのは当たり前の状況だった。もしもきちんと経理をみてくれる強力なビジネスパートナーがいればきっと破綻は避けられただろう。何しろ当時のAV企業はほとんどが、事業を変えるなり規模を縮小しながらも、今もまだ生き残っているのだから。

ドラマを見てから本書を手に取ったので、ドラマとの違いも目に付いた。ドラマでは裏本ビジネスのあと、AV会社をいきなり設立しているが、実際にはクリスタル映像に入社している。もちろん、村西とおるは好き勝手にやっていたわけだが、黒木香の「SMっぽいの好き」もこの会社のときに撮っている。ドラマでは黒木香のAVは、村西がアメリカで逮捕されてから発売されたことになっているが、そんなことはなくて、撮影後すぐに発売されている。村西の保釈金を払ったのも、クリスタル映像だ。これらは、すべてドラマを盛り上げるための脚色だったわけだ。

その後、自分の会社、ダイヤモンド映像を設立するが、大発展したのち、結局50億円の借金を抱えたまま、倒産してしまう。この時に自己破産を選択せずに、返済する道を選択する。たぶん返済する自信があったのだろう。だが返済完了したとの記述はないから、今も返済中なのだと思われる。

意外な事実として、黒木香が村西作品には実際には2本しか出ていないらしくてびっくり。あの圧倒的な存在感は、数とは関係ないのだ。ダイヤモンド映像では黒木香の部屋は村西とおるの隣だったそうだ。

他にも、有力AV女優の個室があり、事実上のハーレム化計画を推進していたようだ。といっても、ダイヤモンド映像では、社員は自分の部屋には戻らず、会社で寝泊まりしている状態で、女優が食事を作って、みんなで食べていたという。まるで大きな家族か、学園祭の前夜みたいな状態がずっと続いていたわけだ。なんだかとても楽しそう。しかし、やっぱり会社経営としては、まずい状況だ。

ダイヤモンド映像が倒産した後、子供が有力私立小学校に受かって(たぶん慶応じゃないかな)、本を出さないかとか講演をしないかとか持ちかけられても、子供は絶対に仕事にしなかったそうだ。偉い。

村西とおるももう70代だ。今の再ブレークでなんとか借金を返せられることを祈る。でも、いまでも、すごくパワフルに見えるよね。

わしもちょっとだけAV産業に接したことがあるので、その思い出を書く。

90年代の新入社員だったころ、わしは会社からリストを渡されて営業に出たことがある。訪問販売だ。そのリストは展示会に来てくださった客のリストで、訪問先が何の会社かは行ってみるまでは分からなかった。インターネットが普及する直前のことで、事前に調べることができないわけではないが、とても面倒なので、訪問して本人たちに直接聞いた方が早い。そこでアポを取って訪問すると、まず「失礼ですが、おたくは何をしている会社ですか?」と聞くところから営業は始まった。そしてその内容から、その場でなにかお役に立てることを提案して、営業をしていたのだ。

あるとき、新宿区のあるビルを訪ねた。確かに訪問先の会社はあったのだが、それは明らかに自社ビルだった。中に通されると、そこはオフィスだったけど、高そうなソファが窓に向かって何列か並んでいる不思議な部屋だった。男たちはソファに座ってなんかぼーっとしているように見えた。何人かの女性がパソコンで経理らしい作業していた。

約束してい人は、会ってみるとサングラスをかけたちょっとへんな感じの男の人だった。一緒にオフィスの隅のソファに座るときれいな女の人がお茶を出してくれた。
「申し訳ありませんが、御社は何をしてらっしゃる会社でしょうか?」といつも通り聞くと、男はぼそっと「AV」と答えた。飲み込むのに数秒かかって、「えっ?」と答えて、周りを見渡した。そこには監視カメラのモニタがたくさんあって、別の階の作業風景を映していた。そこでやってるのはたくさんのダビング器でテープをダビングしている風景だった。それを見てやっと、本当にAVなのだと納得した。

面白かったのは、ダビングで働いていたのも、やっぱりきれいな女の子たちだったことだ。たぶん、女優だろう。AV女優ってこういった作業もするんだ、と妙に感心したのを覚えている。売れていないAV女優だったのかもしれない。(DVDが出る直前で、まだテープだったのだ)。

この会社では仕事は取れなかったけど、半年後にその会社が脱税で捕まったことが新聞に載っていて、やっぱり儲かるんだなあ、と妙に納得したことを覚えている。(苦笑)

★★★★☆ 

 


全裸監督 村西とおる伝

 

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