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ベリングキャット デジタルハンター、国家の嘘を暴く

エリオット・ヒギンズ 訳・安原和見 筑摩書房
読書日:2023.4.27

インターネットなどの公開された情報をもとに調査を行うオープンソース調査の手法を開拓したエリオット・ヒギンズが、ベリングキャットを設立し、パソコンとネットを武器にして国家などの巨大組織に立ち向かう様子を記した本。

最近、オープンソース調査という、インターネット上の公開情報から真実を探るという技術が発達してきたが、それはべリングキャットを創設したエリオット・ヒギンズらから始まっている。

ヒギンズはもともとジャーナリストになりたかったらしい。でもうまく行かずに、小さな会社で管理の仕事をしながら、ネットゲームに逃げ込み、ゲームの世界では結構有名な人物だったらしい。つまりジャーナリスト気質を持っているゲームオタクだったわけだ。デジタルハンターになるには申し分のない資質である。

そんな彼がアラブの春やシリアの内戦に興味を持ち、ネットに上がった映像の解析を趣味で始めた。具体的な手法としては、例えば、画像をグーグルアースなどと比較して正確な位置を割り出したり、影の方向と長さから日時を割り出す方法がある。それが評判になって彼の周りに有志が集まって、専門的な調査集団ベリングキャットを立ち上げた。

べリングキャットとは、「猫に鈴をつける」というイソップの寓話からつけられた。弱いネズミが強大な国家や組織に立ち向かっていくことを示している。

べリングキャットが有名になったのは、2014年、マレーシア機がウクライナ上空で撃墜された事件の真相を暴いたから。膨大な映像データを探って、ミサイル車両がロシアの基地から出発してウクライナのドンバス地方(いまウクライナ戦争が行われているところ)に移動して、ロシアに戻っていったルートを割り出して、責任者のロシアの将校の名前まで特定した。

お金もない有志のあつまりが、パソコンとネットだけで真実をあぶり出したことは、衝撃的だった。そんなべリングキャットはこれまでに何度も有名なジャーナリストの賞を受賞している。

NHKのテレビ番組、BS1スペシャル「デジタルハンター〜謎のネット調査集団を追う〜」も評判になった。わしもこれを見たけど、当時びっくりして、すかさず映像を永久保存したくらいだ。(この本を読んだあと久々に見返した)。

それにしても、ロシアなんかは目障りなジャーナリストをすぐに暗殺するので、覚悟がないとなかなかできない仕事ではある。ヒギンズは信念を持って自分の役割を引き受けているのだと思う。もともとジャーナリスト志望だったとはいえ、勇気のあることである。

ロシアなどはインターネットの戦略にも長けていて、相手を攻撃して、さらに嘘をばらまいて真実を隠すという行動をする。べリングキャットは検証された証拠を使ってこれに対抗する。

インターネットには、信念だけは持っているが事実かどうかはどうでもいいという、いわゆる陰謀論を信じるような人たちが一定数いる。彼らの信念を変えることはできないけれど、べリングキャットのような検証された事実を公表するような活動は、陰謀論者のような発想が主流にならないようにするのに大いに役立つだろう。

このようなインターネット上のやり取りを見ていると、まるで生物の進化の過程を見ているようだ。つまり細菌やウイルスなどは他の生物に侵入して悪さを行う。これに対して生物は免疫機能を発達させてきた。べリングキャットなどはインターネット上の免疫機能のように見える。嘘をばらまく国家も陰謀論者も無くならないけど、生物の免疫系を参考にすれば、インターネットの世界が今後どんなふうに発展していくか、ある程度予測が可能なのではないだろうか。

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