守屋実 講談社 2021.5.6
読書日:2022.2.5
起業しては売却する起業のプロがそのノウハウを伝授する本。
守屋さんはこれまで38(社内起業17+独立起業21)の起業をおこない、14の週末起業を行ったという。とてつもない数の起業を行ってきたわけだ。いま52歳というから、1年で2つ以上の起業を行ってきたことになる。どうしてこんなことが可能だったのだろうか。
守屋さんは最初からこんな人生を歩むつもりはなかったという。就職でミスミを選んだところ、社長の田口弘さんから「あなたは起業のプロになりなさい」と言われて、新市場開発室に配属され、以来延々と新規事業を立ち上げる事になったのである。
17の新規事業を立ち上げたのだが、とくに起業のプロでもなんでもなかった守屋さんは失敗続きで、この時代の成績は5勝7敗5分で、失敗のほうが多かったそうだ。こうして失敗から多くを学んだ。
その後、起業専門の会社エムプロに移り、起業をしては無事に立ち上がったところでそれを売却するということを行ってきた。独立事務所を構えてからは、あのラクスルなどを立ち上げたという。
さて、表題の「起業は意志が10割」というのはもちろん意志がないところには起業は起きない、意志のないところで起業しても成功しない、ということではあるが、面白いのは起業するときには意志は10割だが、起業をして形を整えて行くと、起業家の意志の割合は次第に減っていくことだ。最終的には起業家の意志を超えて、組織的な意志、企業文化のようなものに昇華されて、起業家の意志は最小限になってしまうのである。ここまでくれば、ある意味、起業家がいなくても動いていく組織になっているので、起業家は産み出したそれを売却できるということなのだろう。
事業の構想にあたっては、マーケットインどころかマーケットアウトということを提唱している。マーケットインではまだその会社の都合という意識が入っているが、マーケットアウトというのは完全に社会に必要されているアイディアから発想する。そして、それ以外の必要なものはすべていちから調達するのだそうだ。この発想では最初から会社を作らざるを得ないから、会社に忖度してしまう社内起業ではなかなか難しいということになる。
実際に、既存の会社の社内でおこなう新規事業プロジェクトにはいろいろ問題があって、本業から新規事業をお金も人も評価もすべて切り離さなければいけないという。しかも新規事業を行う部署には、事業開発だけでなく、社内と戦うという普通の起業にはない機能も備える必要があるという。そういうわけで最初から会社を起こしたほうがはるかに早いのだが、守屋さんはそういう社内企業に可能性があると信じていて(彼は日本企業の実力を高く評価しているのだ)、この方向をあきらめたくないと言っている。じっさいにJR東日本などと新規事業の開発を行っている。
いちど起業を行い成功すると、人はそれにハマるそうだ。社会に直接働きかけてポジティブな反応が得られる方法が身に付くと、どんどん楽しくなるのだろう。その感覚は理解できる。この本は起業を行う人にはとても参考になるだろう。
でもねえ、わしはやっぱり起業は面倒くさくなってしまうんだよね。意志がないよね、わし(笑)。
★★★★☆