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時間はどこから来て、なぜ流れるのか? 最新物理学が解く時空・宇宙・意識の「謎」

吉田伸夫 講談社ブルーバックス 2020.1.20
読書日:2020.7.30

物理学が分かっている限りの範囲で時間について語る本。

確かに、どこから来て(ビックバンから時間は始まる)、なぜ流れるのか(エントロピーの法則の結果)はきちんと書かれているし、意識もなぜ時間を感じるのか(意識が因果関係を捏造するから)についても書かれているから、題名には偽りはない。書かれている内容も妥当だし、しかも説明がうまくて感心した。

でもちょっと納得できないところがある。それは記憶の非対称性の部分だ。

作者は物理的には、時間は空間と同じような広がりであり、その広がりはもうきまっているという。だから、いまという時間は実はないという。いまを感じるのは錯覚のようなものなのだというのだ。

だとすれば、なぜ過去の記憶はあるのに、未来の記憶はないのか。この非対称性はどこから来るのか。これは単に意識の500ミリ秒の間の問題ではなく(この時間内では意識は捏造するので時間の流れは感じることができるのはわかる)、それよりも長い時間の、例えばなぜ昨日の記憶はあるのに明日の記憶はないのかの説明が知りたいところだ。

これについて、作者はエントロピーを使って次のように答える。

エントロピーの法則により、時間のビッグバンの近い方で秩序が作られ(記憶)、その秩序は未来で壊れていく(忘却)傾向がある。だから、記憶は過去で作られ、未来でそれが壊れていく方向が定まっているという。だから、未来の記憶は過去には届かないという。

しかし、この説明は一見、正しいが、少し納得できないところがある。

著者は、部分的にはエントロピーが減少する場合があるとたびたび言明している。これについてはうまい表現をしていて、滝が落ちるとき全体としては水は落ちているが、たまに水が岩などに当たって跳ね返るような部分がある。それが、エントロピーが部分的に減少しているところで、そういう部分を使って星や生命は誕生しているという。

つまりエントロピーは、全体としては増加する方向なのだが、部分的には減少する場合があると言っている。

問題はここだ。

生命活動には、このエントロピーが部分的に減少する現象を使って説明し、一方で未来の記憶がないことについては、エントロピーが全体として増加することで説明している。つまりエントロピーの性質を都合のいいように使い分けているのだ。

未来の記憶の説明には著者も1ページちょっとしか割いておらず、もしかしたら自分でも苦しい説明と思っているのかもしれない。単に考察が進んでいないところなのかもしれない。

しかし、意識が時間の流れを捏造する部分についてはあんなにページを割いて饒舌なのに、未来の記憶がない点については、あまりにも内容薄弱である。

できれば、この点について、さらなる本を書いてほしいと思う。

★★★★☆

 


時間はどこから来て、なぜ流れるのか? 最新物理学が解く時空・宇宙・意識の「謎」 (ブルーバックス)

 

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