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MMT 現代貨幣理論入門

L・ランダル・レイ 鈴木正徳・訳 島倉原・監訳 中野剛・松尾匡・解説 東洋経済新報社 2019.9.12
読書日:2020.1.13

MMTはこれまで知った経済理論の中で、もっともすっきりする経済理論で、わしのこれまでの疑問がほぼ解消されたという意味で、個人的には画期的なものである。

これまで読んだのは、以下。


まあ、どっちも中野剛志さんの本なのですが。

しかしながら、全てについてすっきりしたわけではなく、いくつか疑問のところがあった。それについてこの本を読んで、かなり理解が進んだと思う。

わしがすっきりしてこなかったところは、例えばMMTの次のような主張である。

ある貨幣(通貨)がなぜ流通するかという謎について、MMTは次のように説明する。つまり、「政府が国民に対して自分が発行した通貨で税金を納めることを強要するからだ」、というのである。税金を納めるのにある通貨が必要で、税金を納めなかったら投獄されるとしたら、それは確かにその通貨を受け入れるだろう。それは確かである。

ところが、普通言われる、「ある人が通貨を受け取るのは、他の人も受け取ると信じているからである」、という通常なされる説明は、「バカと大バカ理論」(価値がないのに受け取る自分はバカだが、自分よりさらに大バカが受け取ってくれるから)として切り捨てるのである。こうした主張は無限後退であるとして。

無限後退とは、私がこの通貨を受け取るのは誰かが受け取ってくれることを確信しているからで、その誰かが受け取ってくれるのは別の誰かが受け取ってくれることを確信しているからで、というふうに、どこまで行っても根源的な原因に行き当たらないこと)

しかし、これはかなり乱暴な主張である。なぜなら、政府がない社会でも、こうした通貨は流通しているからである。彼らは大バカかもしれないが、しかし流通していることは間違いない。こういうところで自然発生的に生まれている貨幣について、この説明では納得できないではないか。

それに、この主張は無限後退ではあるが、別にこれで悪いというわけでもないと思う。なぜなら、電気回路でフィードバック・ループがあるが、フィードバック・ループはある条件では非常に安定して存在できるのである。(そうじゃないと、そもそもシステム制御として組み入れられない。)このように、通貨とは、通貨→商品→通貨、といったループを作っている安定な循環系システムの現象であるとすれば、この無限後退には意味がある。

しかしながら、この本で次のような歴史的な経緯を教えられると、かなり納得できた。つまり、ヨーロッパ諸国がアフリカなどそもそも通貨を使っていなかった現地人に自国通貨を流通させた方法である。

当然ながら、現地の人はこれまでそのような通貨を必要とせずに、物資をお互いに融通しあって問題なく暮らせていた。なので、その通貨を使う動機は全くなかったのである。だからたとえばポンドやフランあるいは現地政府が発行した通貨が流通することはあり得なかった。

そこで植民地政府は、誰もが持っているものに税金をかけたのである。それは人頭税と小屋税だった。誰でも頭を持っており、住む小屋も持っていたので、誰もが税金を納める必要ができた。したがって、現地人はなんとかして通貨を手に入れて、それを支払う必要が生じた。こうして、現地人は宗主国の通貨システムに組み入れられたというのである。

なるほど。

個人的には、貨幣は人間的な信頼関係の構築能力の自然な延長が原因だろうと思っている。が、そういう心理的というか人類学的、行動心理学的な説明はたしかにあり得るが、MMTが主張するように、主権国家の通貨に関しては、納税のためというのは、これはこれで正しいのかもしれない。

そのほか、政策としてMMTは何を目指すのかという議論も興味深かった。著者のレイによると、MMTは完全雇用を目指すというのである。

MMTが何を目指すべきかについては別の意見もあり得ると思うが、とりあえず著者の主張を聞いてみよう。

MMTによれば、失業というのは、そもそも政府が通貨を発行するので発生するというのである。どういうことか。政府が通貨を発行して、この通貨で納税を強要する。すると、通貨を発行した段階では、この通貨をまだ誰も持っておらず、すべての人はこの通貨を得るための仕事を必要としている。つまり、この段階では、全国民が失業者なのである。失業率100%というわけだ。国が物を買ったり、サービスの代金を自分の通貨で支払って、初めて国民は納税ができるようになる。

そういう意味では、この通貨システム(資本主義)に国民を組み込んだ以上、国民すべてが納税できるように、仕事を与えることが、国の使命とも言える。貨幣がないと幸福になれないシステムを作ってしまったのだから。

国家が仕事を求めるすべての人に仕事を与えることができるのは確かである。しかし、通常は、完全雇用はインフレを起こしやすくなるため、経済学者や政策立案者から忌み嫌われている。たとえばフィリップ曲線というものがあって、失業率が下がるほど、インフレ率が上がる関係があるので、そう思うのだろう。この本によれば、完全雇用のプログラムは、好況時には縮小してインフレ圧力を下げ、不況時にはデフレ圧力を下げるから、かえってインフレ率は安定するという。しかし、いまいち納得できないので、この辺はまだ議論の余地があるのではないか。

しかし、完全雇用を目指すのではなく、ベーシックインカムという方法ではだめなのだろうか。ベーシックインカムについては、著者は「すでに失敗した福祉政策の延長」と決めつけて、なぜだめなのか、明確な説明をしていないように思える。

まあ、細かいところでいまいち納得できないところがあるのはもちろんだが、ともかくこの本でMMTについて理解が進んだことは確かで、かなり夢中になって集中して読むことができた。

最後に、MMT論者によくあることだが、レイもところどころ、自分たちが理解されないことについて自虐的に語っており、もうそろそろMMTはこの辺の自虐史観から脱してもいいのではないだろうか。(苦笑)

ところで、中野さんはMMTと共に、グローバリズム自由貿易)を非難していますが、そういう話はこの本にはまったく出てきませんから、これは中野さんのオリジナルの見方なんでしょうかね。

★★★★★

 


MMT現代貨幣理論入門

 

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