間寧 作品社 2023.6.20
読書日:2023.12.19
トルコの公正発展党(AKP)のエルドアンは2002年に政権を取って以来、20年以上に渡って政権を保持しているが、なぜそれが可能だったのかについて、後光力、庇護力、言説力が優れていたからだと主張する本。
最近トルコがウクライナ戦争や中東情勢について存在感を増しているので、トルコの一般的な知識を得ようと思って本書を手に取ったのだが、意外にまじめに数字を扱って説明するような本格的な研究書だったので、ちょっと戸惑った。しかも、そもそも著者の興味は長期政権が成り立つ条件で、日本も含まれており、トルコは分析のサンプルの扱いだ。でもまあ、特に問題はない。
トルコの歴史を簡単に述べると、オスマントルコが2回のバルカン戦争(1912年、1913年)でヨーロッパの領地を失い、第1次世界対戦でドイツ側で戦って1918年に敗北してアラブの領地を失ってしまう。ケマルがスルタンを廃位させて、共和国を1923年に樹立する。その後、民主政になったり軍のクーデターで軍政になったりという状態が繰り返されて、2002年に公正発展党(AKP)政権が誕生する。
2001年にトルコに経済危機が起き、前政権が通貨切り下げ、増税という痛みをともなう改革を実現済みだったところに、2002年にAKPは政権を取ったので、AKPは国民の怒りを買うような改革をしなくてすんだ。それに加えて、財政改革、金融改革を行い、2008年までの間に国民所得を倍増させることに成功したのである。この成功が後々までにAKPに良い印象をもたらすことになった。これが著者の言う「後光力」である。この後光力は成長の記憶が残っているうちは良い影響を与え、多少景気が悪くなっても、政権を支持する、という効果だそうだ。だが、成長が記憶が薄れると、その効果は消えてしまう。2014年には後光力は生きていたが、2019年ではすでにその力を失っているようだ。
AKPは国民皆保険を実現し、また公平な年金制度も実現した。こちらもその権利を手にした国民は非常にAKPを支持することになった。これが著者の言う「庇護力」である。これまでそのような恩恵に浴したことのない、低所得層の国民にはインパクトがあり、AKP支持層の固定化に役立ったそうだ。なるほど。この話は知らなかったな。ただし、庇護力は景気が悪くなったときの支持率の低下をカバーできるほどの力はないそうだ。
「言説力」とはエルドアンが使うポピュリズム的な言葉の使い方のことである。たとえば、「われわれ」や「国民」という言葉を多用する。そして「われわれ」と「それ以外」の勢力に両極端に分けて単純化するという。こうして政治体制を大統領制に変えることに成功した。
さらに、2016年のクーデターを未遂で防いで、権力をさらに強化することに成功した。
こうして今でもエルドアンの長期政権は続いているが、後光力、庇護力は力が薄れ、言説力も最近は演説にプロンプターに頼るようになってきており、力を失っているという。しかも、低金利にこだわるという一般的でない金融政策により、トルコリラ安、インフレを招いており、経済は大混乱である。
著者は、そろそろエルドアン政権の寿命が尽きようとしているという。
まあ、著者の主張自体はそんなに珍しいものではありませんが、きちんと数字で分析している部分が良いと言えば良いのでしょう。
とりあえず最近のトルコの輪郭は掴めたかな。
★★★☆☆