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新しい名字 (ナポリの物語2)

エレナ フェッランテ, Elena Ferrante 早川書房 2018年5月17日
読書日:2019年3月21日


この作品、世界的なベストセラーでむちゃくちゃ面白いんだけど、日本ではまったく話題になっていません。もったいないなあ。

リラとレヌーの二人の女性の友情、というか因縁を扱った、ナポリ4部作の2作目。今回は語り手のレヌーが高校から大学を卒業するまで。つまり、まさしく思春期の時代を扱うことになるのだが、第2部でもこれまたレヌーはリラの生き方に圧倒される展開となる。

二人の関係をもう一度おさらいすると、次のようだ。

二人ともナポリの貧民地区に暮らしていて、そこから脱出しようとしている。

努力家だが天才とはほど遠いレヌーと、破壊と創造を繰り返す荒々しいリラ。レヌーはリラのお陰で、自分が真の意味で才能がないことを常に思い知らされている。何か創造的なことを成し遂げたと思っても、その根底にはリラから与えられたインスピレーションを発見してしまうのだ。

しかし、二人は離れることができない。なぜなら、この二人は他の人とレベルが違いすぎて、お互い同士しか理解できないからだ。たとえ、一方が進学に成功し学業のキャリアを重ねて、他方はそれが叶わなくなっても、常にお互いを意識して生きていく。

お話の展開を語ってもいいのだけれど、ここは作品の工夫について語りたい。

二人のうち、レヌーは奨学金を手に入れることに成功して、高校に進学する。他方、リラは進学は叶わず、16歳で結婚する。相手は店を何件か経営しているステファノという男だ。題名の「新しい名字」とはリラが人妻になったことを示している。学生と人妻では立場があまりに違いすぎて、このままでは二人の人生に接点がなくなってしまう。

で、どうやったら二人の人生を交錯させられるのだろうか。ここで作者は少々トリッキーな手法を使う。

まず、この本の3分の1ぐらいは高校2年の夏の2週間ぐらいの出来事を語っている。それを実現するために、いろいろな理由で主要な人間、といっても3人なのだが、その人間が全員同じ島に集合するように仕掛けている。

しかし、まあ、これはなんとかなりそうなので、実際に作者はそこはうまくやっている。問題は、レヌーが学校にいる間に起こったリラの出来事も、語り手のレヌーが話さなくてはいけないところだ。レヌーがリラと距離を取ろうとしている場合でも、レヌーはその部分を話さなくてはいけない。とくに大学時代はナポリを離れてピサへ行ってしまうので、まったく情報が入らなくなってしまう。

そこでレヌーは、実家に帰ったときに友達からいきさつを聞きまくったりする。それはまあ、いいとして、もっともトリッキーなのは、何かあるとリラは自分のいろいろな思いをノートに綴っているのだが、人生の節目になると、ここには置いておけないからと、レヌーにそのノートを預けるのだ。したがって、レヌーはリラに起こったことを、そのときの気持ちも含めて正確に再現できるということになっているのである。

ちょっとトリッキーでしょ? でもそれを読むたびに、レヌーは衝撃を受けることになっていて、話の展開にもいちおう貢献しているのである。

✳✳✳ 以下は結末部分について触れるので、ネタバレ注意 ✳✳✳

最初の方では、創造の才能を多少は発揮しているリラだが、その後は全編に渡って破壊的な行動をとる。夫の事業を破壊し、家族兄弟を破壊し、ついには家を出てしまう。それこそまったく何も持ち出さずに。(しかも、わざわざ行き先の住所も残すのだ)。

大学を卒業するときに、レヌーは小説を書いて、それが出版されることになる。それを報告しに、リラのところを訪ねる。リラが住んでいるところは実家の貧民街よりもさらに落ちる極貧街だ。そこでリラはサラミ工場で働きながら子供を育てている。

一見、大学を卒業し、作家デビューを果たしたレヌーが成功者で、リラは敗者だ。だが、次の一言で、レヌーはそういう自信がなくなってしまう。
「夜は息子が寝てから勉強をしているの。プログラミングの。フローチャートってわかる?」
「わからないわ」
1960年代の話なのだ。パソコンはまだない。リラは極貧の生活の中でも、最先端を走り、レヌーを追い越してしまっている。

リラの強さは、必要ならすべてを捨てるのに躊躇しないところにある。生きるか死ぬかの思いでいるのだ。石橋を叩いて慎重にキャリアを重ねるレヌーにはできないことだ。その一方で、リラは形あるものがすべて溶け出して消滅してしまうという恐怖に駆られ、また自分も消滅したいという願望も備えている。相当にヤバイ人間なのだ。(そして非常に美しいということなっている。)

この小説は、フェミニズムと絡めて話されることが多いかもしれない。しかし、小説として純粋に面白い。

 ★★★★★

 


新しい名字 ナポリの物語

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