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第五の季節

N・H・ジェミシン 訳・小野田和子 東京創元社 2020.6.2
読書日:2020.8.26

(ネタばれあり。注意)

シリーズ三作がヒューゴー賞を三年連続で取ったという、鳴り物入りのSFファンタジーの1作目。(最近こういうのが多いな、三体とか)。

何しろ聞いたことのないような設定や能力が盛りだくさんで、とても全部は書ききれないが、とりあえずいくつかは書いておかないと話が進まない。驚くべきはこれだけ不可思議な設定が次々出てくるのに、すらすら読んでいけること。まあ、SF作家であれば必要な能力なのだが、著者は異常にその能力が高いと思う。

まずオロジェンという特殊能力をもつ人間が登場する。英語ではorogenで直訳では地学の造山(インド亜大陸に押されてヒマラヤ山脈ができたみたいな)のことだが、ここでは地球の地殻やマグマなどの地球物理学的な対象に直接影響を与えられる人々のことをいう。彼らは地震を起こしたり、逆にそれを押さえ込んだりすることができるオロジェニーという能力をもつ。

こんな人間がいるせいなのか、この世界では大陸さえも不安定で、よく地震が起こる。火山もよく噴火し、噴煙のせいで何年も寒冷化するといった異常気象も起きる。こうした異常気象の時期を「第五の季節」と呼んでいて、このため文明が何度も滅んでしまう。人類はこの季節を乗り越える知恵を、石に刻んで後世に伝えた。それらは「石伝承」と呼ばれる。

こうするうちに、サンゼ人の帝国が誕生し、必要な物資を貯蔵して異常気象の第五の季節に備えるようになった。また守護者たちがオロジェンたちを組織し、奴隷のように支配して、その力を使って地球の地質的な変動を抑えようとしている。こうして、第五の季節を人間はある程度やり過ごすことができるようになっている。

そして、古代の超文明の残骸もある。空にはオベリスクという謎の物体が浮かんでいて、移動している。また石喰いという白い磁器でできたような不死の存在がいる。石喰いたちは地中を移動できる。

というような世界で、三人の女性オロジェンの物語が並行的に語られる。

ひとりはエッスンという母親で、新しい第五の季節が始まったときに彼女の物語も始まる。彼女の夫が息子を殺して娘のナッスンを連れて出て行くという事件が起こる。エッスンは娘を追いかけて、第五の季節が始まった世界の混乱のなか、旅に出る。途中でホアという少年とトンキーという女性と道連れになる。エッスンの物語は「あんた」という二人称で語られ、誰が語っているのかは、最後に分かる。

二人目はダマヤという少女で、オロジェンの能力を持っているために、帝国の首都ユメネスにある訓練機関フルクラムに連れていかれる。ここでオロジェンとしての能力を鍛えるとともに、指導者カーストの少女ビノフと出会う。

三人目はサイアナイトという若い新人オロジェンの話で、アラバスターという有力なオロジェンのもとで初めての仕事に出張する旅に出る。しかし結局アラバスターと自由を求めてフルクラムを脱出することになる。彼らを追ってきた守護者たちと、オロジェニーを使った超能力対決を繰り広げる。

ここからはネタばれだが、エッスンが長い旅の末にカストリマという町につくと、そこに3つの話の全ての登場人物が集合する。そして、エッスン、ダマヤ、サイアナイトの3人は同じ人物であることが分かる。そして第五の季節を引き起こしたのは、アラバスターだということが分かる。アラバスターには次の計画があり、それにエッスンを巻き込もうとしているところで、第1部は終了する。

なんとも不思議な話。いまのところは、石喰いとか、オベリスクとか、謎の部分が多いけど、その辺はおいおい説明されるんでしょう。なんか展開が宇宙にまで拡大されるような感じ。

それにしても、いろいろ細かい設定が次々に出てきて、ここまで設定を考えなくてはいけないというのも、作家はなんとも大変です。

(しかし、文庫本で1600円とは高いんじゃないの? わしは図書館使ってるから関係ないけど)

★★★★☆

 


第五の季節 〈破壊された地球〉 (創元SF文庫)

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