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ライフ・シフト―100年ライフの人生戦略

リンダ グラットン, アンドリュー スコット 東洋経済新報社 2016年10月21日
読書日:2019年2月14日

人間の寿命が100年に延びることはほぼ確実と言われている。では、その時の人の人生とはいったいどういうものになるのか。何が大切になるのか。

この本は2016年に出版されたのだが、いまだに売れ続けているロングセラーだ。おそらくこの分野における古典となり、今後も長く読み継がれるに違いない。

もちろん、わしも存在は知ってはいた。だが、何しろ題名を見るだけでなんとなく内容が予想できてしまうため、あまり読む気がしなかった。

しかし今回読んでみて、売れている理由が分かった気がした。とても未来がイメージしやすいのだ。内容の重大さに似合わないこの軽さ、分かりやすさはとても貴重だ。

すごくシンプルにジャック、ジミー、ジェーンの3人を登場させて、それぞれのライフステージを描いて見せているのがよい。

ジャックは1945年の生まれで、昔ながらの3ステージ(教育、仕事、引退)の生活を送り、70歳代で亡くなる。過去の安定した人生の代表だ。

ジミーは1971年の生まれで、いま40代。いまの中年を体現している世代で、読者のかなりはこの年代だろう。だからわが身のこととして実感できるだろう。未来と過去の移行期の存在だからけっこういろいろ大変だ。80代まで生きる。

しかしやはりなんといっても興味深いのは、1998年生まれのジェーンが送る人生だ。ジェーンはもちろん、100歳まで生きる。

ジェーンは20歳半ばまでエクスプローラーとして旅をしながら自分の興味を探索し、インディペンデント・プロデューサーとして組織に属さず働き、経験を積む。30歳後半に結婚し子供を産むと、今度は一転、会社に就職し、物質的な資産を築く。しかし子供が成長すると、こんどはポートフォリオ・プロデューサーとして、さまざまな仕事を少しずつこなす仕事の仕方にスタイルを変える。このように、仕事のスタイルを変えるために、変身力をつけるために、自分に再投資をおこなったり、活力を取り戻す時期を設けたりしている。そして85歳で引退して、夫ともに昔の土地を訪ねる旅をしたりする。

インディペンデント・プロデューサーとかそういう言葉が出てきたりするが、それはあまり重要ではない。未来は誰にも予測できないから、著者は最近の若者のはやりの働き方から連想して、いろいろ書いているだけで、今後どんな働き方が出てくるか、誰にも分からない。ここで大切なのは、人生の中で働き方が何度も変わること、そして変わるために自分を再活性化(リ・クリエーション)する期間を儲けなくてはいけないということだ。

まあ、要するに人生の選択肢が多くでき、いろんな働き方ができるということなのだが、いちばん印象的なのは、仕事とプライベートが分離されずに、ブレンドされているということだ。今のように仕事は会社で、プライベートは家庭でというふうになっておらず、両者は融合していく。

なんというか、直感的には、産業革命以前の中世のような働き方に戻る印象である。例えば、個人の評判(自己ブランド)が非常に重要で、それを築く必要があることも強調されており、これまた中世の職人のようである。

しかも夫婦はもちろん、仲間との絆が大切になり、良好な関係を保つ必要もある。このような無形の資産の存在感が大きくなると、ちょっとやそっとでは夫婦や仲間との絆を解消することは難しくなる。

ここからはわしの勝手な推測だが、こうなると、家族、親戚、あるいは職業ギルドのような、産業界名以前から存在していたようなグループ、組織、繋がり、の存在感が大きくなりすぎ、本の中のような自由と選択肢の大きい社会ではなく、実際にはお互いに密着しているけどなかなかそこからは自由になれない、けっこう不自由な社会が出現するのかもしれない。

また、ほとんど人間はジェーンのように主体的に生きる、ということはあり得ないだろう。

大部分の人は、ただだらだらと長生きして、必要に迫られてやっと生活を変える程度なんじゃないかという気がする。人生が長くなったら、人がいきなり自分の人生を歩むなんてあるはずがない。

どちらにしても、本書は示唆に富んでおり、折に触れて本書の述べていることが合っていたかどうかの検証がなされるであろう。そしてたぶん、思ってもいなかった社会が出現するのではないか。

非常に楽しみである。それまで生きていられたら確認できるだろう。

★★★★★

 


LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略

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