長谷川慶太郎 徳間書店 2018年10月20日
読書日:2019年2月3日
長谷川慶太郎の読みが必ず当たるわけではないのは承知しているが、それでもこの人のように世界中に目配りして、本当の意味で大局を読むことのできる人はまれなので、大変貴重である。
この本もたぶん9月ごろに原稿があがって、10月出版したのであろうから、今読むと3,4ヵ月前の原稿を読んでいるはずのだが、まったく違和感がない。直近は、長谷川氏の読み通りに進んでいるようだ。
米中貿易戦争に関しては、勃発当時から単なる貿易戦争ではなく覇権争いであると述べており、しかも中国が負けて、最後には白旗を揚げると一貫している。メンツがあるので、いまはメンツがつぶれないような形で収める方法を中国が模索している段階だという。
一方で、日本の自由貿易を守るTPP、EPAの動きを高く評価している。ほとんど日本が世界の中で孤軍奮闘といった感じである。わしもこの日本の動きは将来世界経済に非常に大きな役割を果たすと確信しているので、この日本の仕事は誇らしいと思う。国民にアピールするかどうかは不明だが、きっと安倍政権の評価をさらに高めるだろう。
いま、保護主義がアメリカを中心に世界を席巻しているが、保護主義でやっていけるものではなくいずれ自由貿易に戻ってくると、氏は楽観的である。それがいつごろになるか教えていただければなおいいのですが。
長谷川氏の読みの特徴は、結局、経済的に有利なように進むという、経済原理主義ともいえる信念である。ここが最大の長所でもあり、最大の弱点でもあると、わしは思う。
たとえば、氏は中国について、さらに経済が発展すればいずれは選挙で指導者を選ぶようになると楽観的である。氏は、全ての国は最終的には自由貿易を目指し、それにつれて国民の力を増し、自由選挙に至るという信念があるかのようである。なぜならば、その方が誰にとっても経済的に有利なので、そのように選択するのが合理的と思っている節がある。
わしはそうは思わない。人間は非合理な判断を行うと思う。たとえそれが経済的にどんなに不利であっても。
中国共産党は自分たちの存続だけが目的化していて、もしも自分たちが権力を失う可能性があるのなら、たとえ何億人が死んでも、その可能性がある方を選択しないと思う。
朝鮮半島についても、北と南は統合するという。ここまではいいが、氏は、統合すれば経済力のある韓国の方が北朝鮮を吸収するのが自然だという。
わしはそうは思わない。
韓国が北朝鮮を吸収する可能性があるのは、北朝鮮の体制が崩壊し、なおかつ統合朝鮮が全ての核を本当の意味で放棄した場合だけである。
北朝鮮の体制が崩壊しないまま統合し、核を放棄せず保有し続ける場合は、世界はこれまでと同じような経済制裁を続けざるを得ず、韓国の経済は崩壊し、核を保有し軍事力が勝る北朝鮮が中心になるだろう。
もしも経済的に有利というだけで事が進むのなら、北朝鮮と韓国はとっくに統合しているはずではないか。それを阻んでいる要因がある限りは、統合朝鮮を韓国が指導するとは限らない。
そういうわけで、必ずしも全面的に賛成できないけど、あまりに鋭いので、これからも長谷川さんの本を読んで、知恵をもらいたい。
★★★★☆