田中 信彦 日経BP社 2018年10月18日
読書日:2018/11/30
中国人の考え方の癖について述べた本。この内容のほとんどは、日経ビジネスオンラインで読むことができるが、1冊を通して読むと、いろいろ考えるところがあって興味深い。
この本の切り口は、題名の通りで、日本人は「~すべき」というスジで考えるが、中国人は判断の基準は「量」であり、スジは認めるものの融通無碍にその時その時で判断すべきだと考えている、という。具体例としては、窃盗罪がある。日本では10円でも盗めば窃盗罪が成立しうるが、中国ではある金額以上にならないと罪にはならない。そう法律に明記されている。影響力が大きい場合だけが問題なので、影響力が小さい場合は、考慮されないだそうだ。また小銭の貸し借りの話もなるほどと思わせる。
しかしこの本で興味深いのは、個人の中国人と集団の中国人について述べているところである。個人としての中国人は、全員が個人事業主のようなもので、非常に強い。そしてこのような特性は全員にメリットがあるときには強力である。ところがメリットがなくなり始めると、個人が次々に逃げ出し、一気に崩れてしまうという。攻めに強くて守りに弱いのである。また、1つのことを続けるのをリスクと考える性質があり、技術の蓄積ができないという。
中国では個人が自分の人生をしっかりつかんでいるように見えるが、実際にはその価値観は多様性がほとんどないという。中国人は人間がこうであるべきだという価値観があって、そこから外れることは許されず、日本以上の同調圧力が働くという。したがって、特定の局面では圧倒的に柔軟性を発揮する中国人が、人生の価値観という大きな考え方では自立できず、個性がないという。したがって、このままでは自立した個人が存在しない超大国が出現することになり、それにどう向き合って行くかが問題だという。
これまで読んできた中でもっとも示唆に富んだ中国人論である。
★★★★★