五木寛之 幻冬舎新書 2023.3.30
読書日:2023.5.19
90歳になった五木寛之が、本当の養生とは自分が実践している養生と、世間の空気と体調の関係、はたまたいま日本で作られつつある新しい老人像について述べた本。
この本を読んで、うーんと唸ってしまった。90歳でこの本を書くとは。超人でしょうか?
五木さんは子供の頃から身体が弱かったそうで、自分の身体を使っていろいろ工夫して実験をするのが習慣になっているそうだ。老眼になったら目を訓練してみる。暇があると近くを見たり遠くを見たりすることを繰り返すような訓練をしてみたところ、新聞を老眼鏡なしでも見れるようになったそうだ。これはすごい。耳も、いろいろな音を聞き分ける訓練をしたり、テレビの音量をあげずに聞き取るように訓練したりしているという。そのせいか、いまのところ補聴器は必要ないらしい。
こういう訓練には、それに熱中するというよりもほどほどに、しかし続ける、ということが大切なんだそうだ。気楽に続けるというところが、養生という言葉に表れている。
こういう養生には科学的というよりも、自分で実感したものを続けるというのが重要と強調している。なにしろ科学的という内容にも、ひとによって全く違ったことを主張していることがしょっちゅうあり、どれが正しいかわからない状態なんだそうだ。なので、自分の実感を第一とする。
養生のうち、飲み込む技術である「嚥下」を意識して訓練することを強調しているのが珍しい。飲み込むことを当たり前に思わず、意識的に行うことが大切だという。これで誤嚥性肺炎を防げるという。なるほど。
五木さんは気圧の変化にも弱いそうで、低気圧が近づいて下がり始めると、偏頭痛がするそうだ。しかし、いまでは天気図をみて気圧が変化しそうになると、前もって対策をするので楽なんだという。
そして、五木さんは、世界情勢というものも気圧のような影響があるのではないかと疑っている。つまり、いまは昭和の前半のような不気味で不安な、嫌な感じがする空気なのだという。ウクライナや台湾情勢のような緊張のことを言っているのだ。五木さんは戦争を平壌で終えていて、その時の周囲の不穏な状況を憶えているので、そう感じるらしい。身体は世界の気圧と連動すると五木さんは信じている。
そしていまの老人はこれまでの老人と違う「第3世代」の老人なのではないかという。これまでは「死」自体が問題だった。いまでは「死ぬこと」が問題になった。そしてなかなか死なずに「死ぬまで生きること」が問題になる。それなのにこのような新しい時代を生きるための老生観が我々にはないのだという。それはこれからの新しい老人が作ることになる。新人類と同じように新老人が現れるわけだ。
五木寛之の理想の死に方は「ピンピンコロリ」ではちょっと死ぬときが急すぎるので、「ピンピンソロリ」で倒れてから一週間ぐらいでゆっくり死んでいくのが理想なんだそうだ。ただし、痛みだけはゴメンだそうだ。
五木寛之は生まれた年の関係でつねに団塊の世代のちょっとだけ先を行っている。ずっとそんな人生を送ってきたのだ。もちろん老人の世界に関しても、団塊の世代のちょっとだけ先を行っている。五木寛之はつねに団塊の世代を相手に商売をしてきた人、といえるんじゃないかなあ。
★★★☆☆