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個人投資家目線の読書録

植物に死はあるのか 生命の不思議をめぐる一週間

稲垣栄洋 SBクリエイティブ 2023.7.15
読書日:2023.9.7

植物学を教える大学教授のところに植物をめぐる質問メールが一週間にわたって届くが、いずれもすぐに答えるのが難しい問題で、教授がいろいろ考えを巡らせる本。

この本の最初の質問は植物と動物の違いについてである。これは非常に難しい質問で、結局のところ、大昔に誕生した最初のひとつの生命が植物と動物に別れたので、植物と動物の間には明確な区別がなく、微妙なグラデーションが存在しているからだ。わしは知らなかったが、植物の中には移動するものがあるのだという(ソクラテア・エクソリザ)。もちろん非常にゆっくりとだが。

というわけで、植物について考えることは動物について考えることとかなりの部分重なる。

とはいえ、植物は死ぬのか、という質問に対する答えは動物以上に複雑だ。

種を作って子孫を残す場合は確かに世代ごとに異なっているから、動物と同じように死んでいると言える。しかし、種でなく球根で増えていく場合は、自分自身のクローンを作っているのだから、死んだと言えるのかどうかわからなくなってくる。さらには人間が関与すれば、挿し木で増えることもできる。

そう考えると、動物だって死なないと言えるのかも知れない。宇宙人から見ると、人類は全体でひとつの生き物に見えるのかも知れない。結局、全体と個の関係性ということになってしまうのだろう。

そういうわけで、この本での答えは、植物が死ぬのかどうか分からない、それどころか死ぬこと自体がわからなくなりました、ということでした。(笑)。

まあ、妥当な答えですね。

なお、大学の中庭には大きなクスノキがあり、その伐採作業が進められていて、メールで質問してきた楠木さんは受講者名簿にはなく、クスノキが撤去されるとメールが来なくなるという、なかなかいい感じの仕掛けが施されていました。

著者の稲垣さんは、植物に関する似たようなネタの本が多いようです。科学系の作者の中には同じネタを手を変え品を変えて出版する人が多い気がしますね(たとえば、化学系のこの人、「世界史は化学でできている」)。エンターテイメント系の人の場合、同じネタを書き続けると読者から叱られるのですが、科学の場合はそもそもネタ自体が変わりようがないので、同じネタを別の切り口で提供しても別に叱られることはないですね。思いついた切り口の数だけ本が書けて、うまい切り口が見つかるとベストセラーになることもあります。なかなかいいですね。

★★★★☆

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