ピーター・ボグダノヴィッチ 訳・宮本高晴 国書刊行会 2026.2.5
読書日:2026.5.25
2022年に亡くなった映画監督のボグダノヴィッチが、過去にインタビューをした偉大な映画監督の録音をカットなしにそのまま書籍化したもの。
わしは、小説と同じように映画もそんなに見ないけど、こういうどうやって創作を行うかという本に非常に興味を持ってしまう。なので、この本も非常に楽しく読ませていただいた。なんとⅠ、Ⅱ合わせて1000ページ、しかも10ポイントの2段組みである。すごい量なのだ。しかしそれぞれ一週間ずつ、二週間で読み終わった。(つまり図書館には無事に返却期限内に返した(笑))。
インタビューした監督の数は16人。そのどれもが大御所と言っていい監督たちだ。
インタビューした監督たちが活躍したのは1910年代から1970年代にかけて。つまりサイレントからトーキーに移ってハリウッドの黄金時代を経て、さらにニューシネマの時代あたりまで活躍した監督たちということになる。ボグダノヴィッチはこの時代の膨大な量の映画を見ており、そしてこうした作品群について記憶だけでやり取りができるという稀有な存在だ。
では、これらの映画監督たちの時代の特徴というのは、一言でいうとどういうことになるのだろうか。
それはこの時代は膨大な数の映画が撮影され、それが毎週のように映画館にかかった映画の大量生産の時代だったということだ。このインタビューに登場する誰もが膨大な量の作品を作っている。そして、その中で、いろんな実験を皆がしているのだ。大量に作られるからこそ、一作の重みが軽くなり、少し失敗してもまあいいやで済ませられるわけだ。その証拠に多くの監督がB級映画の出身だ。B級映画というのは、責任が小さく、軽く扱われる。それこそが最大の利点で、そんな実験が可能になるのだ。語られるのは、撮影技術、物語の作り方、役者との関係、演出、編集方法などだ。こうして、いまあるほとんどの映画術がこの時代に出そろうことになる。
そして、非常に面白いことに、この監督たちのインタビューでは何を考えて映画を作っているかということが監督ごとにまったく違うということである。監督ごとの個性が強烈に現れている。
いくつか例をあげてみよう。
ハワード・ホークスはいろんなジャンルで成功したひとだった。ギャング映画、スクリューボール・コメディ、ミュージカル・コメディ、SFホラー、西部劇、ハードアクション、プロフェッショナルのチームプレイもの、などなど。これらの様々なジャンルで成功したというよりも、そのジャンル自体を作り出した人という方が正解に近い。つまり彼は新しい物語のプロットを作る天才だった。彼は映画だけでなく、たくさんの脚本を書いて、それでかなり稼いだそうだ。つまり、アイディアは売るほどあるというわけで、ホークスの話を読んでいると、なんだか手塚治虫を思い浮かべてしまう。
ハリウッド映画の王道の監督のジョージ・キューカー。彼はスター俳優からその魅力を引き出す名人で、話のほとんどはそういった人との付き合い方と言ってもいいくらいだ。大スターであってもまるで身内のように扱えるひとで、その人にあった扱い方をする。新しい才能を見出すのもうまく、多くの新人俳優をスターにした。おどろくほど広い敷地の屋敷でパーティを行うなど、おそらくハリウッドでもっとも成功した監督なんじゃないかな。彼は新しい映画表現を切り開くタイプではなく、むしろ完成されたハリウッド・システムのなかで、スターをもっとも魅力的に見せることに徹した監督だったと言える。
ヒッチコックは、見ている人の心理を操作することしか考えていなかった人だった。その作品がどういう意味を持つとか、最後に何を与えるかはあまり興味がなかったようだ。物語の中心は、「マクガフィン」と呼ばれるものだ。じつはそれはなんでもよくて、それをめぐって物語が展開する。それに執着するのは登場人物だけで見ている観客には何の意味もないものだ。そしてどのようにすれば観客にサスペンスが与えられるかについては、まず最初に観客にすべてを明かすのがいいという。たとえば爆弾なら、まず爆弾を観客に明示するべきだという。そうすれば観客はいつ爆発するかとハラハラする。そして観客がハラハラすれば爆弾は爆発してもしなくてもいいそうだ(笑)。そして、この表現で何分間観客の気を引けるか冷徹に判断している。こんなふうだから登場人物も、物語を進める以上の意味はないらしい。
などというような感じで、それぞれの監督の個性が非常にくっきりと浮かび上がる。
これらのインタビューは、映画産業というものが立ち上がった創造の時代の監督が対象なのだ。新しい表現が生まれ、夢中になってその可能性を試そうという人たちの姿がここに刻まれている。この時代の記憶は、きっと忘れ去られてしまうんだろうけど、まあ、少なくともわしは読んでいて楽しかった。
ありがとう、ボグダノヴィッチ。
ところで、このなかにジョン・フォードがいない。ジョン・フォードがいないなんてことがあるのだろうか、と思っていたら、ジョン・フォードだけは別に1冊の本になっているのでした。やっぱりジョン・フォードは別格なのかしら。こちらの本もすぐに予約した(笑)。
★★★★☆

