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サイコパスから見た世界 「共感能力が欠落した人」がこうして職場を地獄にする

デイヴィッド・ギレスビー 訳・栗木さつき 東洋経済新報社 2025.8.9
読書日:2026.1.28

共感能力の欠けたサイコパスが上司だと職場が崩壊し人生がめちゃくちゃになってしまうので、全力でそこから脱出しなければならず、このようなサイコパスが猛威を振るわないようにするには誠実な気風の会社を作るしかない、と主張する本。

サイコパスは人類の5%を占めるんだそうだ。20人に1人がサイコパスということになるので、誰でも人生のどこかでサイコパスに会っているはずだ。(サイコパスの割合には1〜5%と諸説あるが、かなりの数がいることには間違いない)。

サイコパスの特徴としては、平気で嘘をつき嘘がばれても気にしない、人を操ろうとする、他の人の痛みを理解できない、判断基準は自分の利益になるかどうかだけなので判断が早い、表面上は非常に魅力的(言葉を取り繕うのがうまい)、衝動的、などがある。

サイコパスには単純に共感能力が足りないのだという。人の身になって考えるという能力がないのだ。これには生物学的な理由があって、他人の感情を推察する機能がある内側前頭前皮質が通常より17%小さいのだという。したがって他人の感情を理解できない。さらに内側前頭前皮質には感情に流されずに計画を練るという機能もあるから、その機能がないサイコパスは感情的、衝動的な行動をする。

さらに感情を司る扁桃体と前頭前野や側頭葉前部を結んで報酬体系を形成しているフォン・エコノモ・ニューロンが少ないという。報酬体系が欠損しているから、自分に起きたことを評価して考えや計画を変えるなどということはできない。自分が間違っているかもしれないなどという反省は不可能だから、自分は常に正しく、たとえ周りからそれを指摘されてもそれを認めることはない、というか、そもそもできない。

といった、この辺については類書にも同じようなことが記載されているけれど、この本の素晴らしいのは、サイコパスから見てこの世の中がどのように見えているのかということを具体的に教えてくれることだ。サイコパスは他人の身になって想像することは不可能だが、わしらはサイコパスの身になって考えることができるのだ。

通常、人間の社会は信頼関係によって成り立っている。そのため人間は「しっぺ返し戦略」という方法で周りの人間と付き合っている。その戦略とは、(1)初めて接触したときには無条件で相手のことを信じる、(2)もしも裏切られたら、同じだけやり返す、(3)もし相手が態度を変えたら過去の間違いは忘れる、というものだ。この方法が信頼社会の構築に最も効率的だということが、数々の心理学の実験により分かっている。

このような信頼で結ばれた社会は、サイコパスから見ると、バカの集まりに見えるという。なにしろ、どんな嘘を言っても、相手はまずはそれを受け入れるからだ。そして、嘘がばれそうになっても、なにか適当な言い訳をすれば、かなりの期間、相手の信頼を繋ぎ止めることができる。こうしてサイコパスは、この世の中はお人よしのヒツジの集まりであり、自分はそのヒツジを自由にできる羊飼いだと思っているという。

このようなサイコパスの特性は例えば就職活動の面接時に非常に有利に働く。たとえ経歴に嘘を並べたとしてもほとんどの人はそれを真に受けるし、それについて具体的に質問してもサイコパスは表面的にはとても魅力的な嘘をつくことができるからだ。こうしてまんまと会社の中に入り込むことができる。

さらに、サイコパスは上層部に取り入るのが非常にうまい。サイコパスは平気で心にもないお世辞をいう事ができるし、自分がいかに有能かを臆面もなく説明できるし、他人の功績を自分のものにすることも平気だ。実際にはサイコパスは現場の実務に混乱をもたらし、周りのものが必死でその穴埋めをしている場合もあるが、上層部が現場をきちんと見ていなければ、サイコパスの言い分を信じて、サイコパスが無能な部下の穴埋めをしているように見えてしまう。

こうして、サイコパスが出世すると、その部署は地獄になる。サイコパスは相手をまったく信頼できないので、すべてをチェックしたがる。いわゆるマイクロマネジメントを行うのだ。どんな細かいことも自分でチェックしないと気がすまない。よくそんなことをする時間があると思うかもしれないが、実はサイコパスには時間がたくさんある。なぜなら、サイコパスのあらゆる判断は即断即決だからである。普通の人なら、案件の関係者のことを考えていろいろ熟慮するところを、サイコパスは自分の利益だけを考えて決断するので、決断は簡単なのである。

そして自分の部下をコントロールしようとする。どうでもいいようなところでやり直しを何回も命じたり、その結果仕事が遅れると部下を罵倒したりして、自信をなくすようにしむける。みんなの前と、個別の対面とで違ったことを言い、部下同士が疑心暗鬼になるようにしむけて、お互いの信頼関係を壊す。

特にサイコパスがターゲットにするのは、自分の立場を揺るがしそうな優秀な部下だ。サイコパスはこういう人をなんとしても会社から追い出そうとする。自分の部下は、凡庸なイエスマンで固めたいのだ。そのためには、たとえば、上から言われた仕事をわざとターゲットに少し内容をずらして知らせて、できの悪い文書をかかせて、上からの信頼を落とすようなことをしたりする。ターゲットがサイコパスの攻撃に耐えられなくなって会社を辞めることになっても、会社から推薦状を書いてもらえる可能性はなく、しかも悪い噂を業界で流されることは必至なので、再就職にも苦労して、別の業界や外国へ行かざるを得なくなることもあるという。(注:英語圏の国の話)。

そういうわけで、サイコパスが同僚だとしても迷惑だが、もしもサイコパスが上司になったら最悪である。ぜひとも自分が攻撃のターゲットにならないように努力しなければいけない。そのためには完全服従の体を示し、言われたことは素直にすべて実行し、極力余計なことはしないようにして目立たなくする。そして最も大事なのは、指示されたことをすべて文書で残しておくことだ。サイコパスはあとになって簡単に前言を否定し、あなたのことを無能と決めつけるからだ。ただし相手が違うことを言っても、文書を持ち出して相手を論破してはいけない。怒らせないように、以前と指示が変わったのですね、と確認するだけに留める。そうやって時間を稼ぎながら、この地獄を脱出することに全力をそそぐのである。ここにいてもいいことはなにもないどころか、破滅させられるかもしれないからだ。残念ながら、自分のことを最優先に考えるべきで、同僚を助けるゆとりはない。

特に会社内の風通しが悪く、分断がある場合、そのような状況をサイコパスに付け込まれ、会社が破壊されてしまう。サイコパスは特に深い策略や陰謀を考えて行動しているわけではない。サイコパスはその時々で自分の利益だけを考えて行動しているだけなのだ。しかし、もし自分に有利な状況が現れたとき、その状況を利用することに全く躊躇しないのである。それがたとえ倫理的にどうかと思えるような場合でも。

一方、サイコパスがはびこらない会社を作ることは可能で、会社が上から下まで誠実でオープンな風土を持っていれば、サイコパスは自分の勝手にできず、自分の性質を周りに合わせるか、その会社に居づらくなって自分から去っていくという。

サイコパスが上司になったら最悪だろう。その場合はなんとしてもその状況から脱出しなくてはいけない。しかしサイコパスが国家の大統領だった場合は? 著者は繰り返し、トランプはサイコパスだと断言している。トランプがサイコパスだとしても、国民は別の国にいくわけにもいかない。幸いにして大統領には任期があるから、任期が来ればトランプは辞めるのだけど。

このようにサイコパスは会社を破壊するが、ここでぜひとも考えなくてはいけないのは、サイコパスがなぜこの世に存在し、なくならないのかということだ。これには2つの考え方があるとわしは思う。

ひとつは、サイコパスに有用な場合があるという考え方だ。普通の人が感情に流されて決断できないときも、サイコパスなら容易に決断できる。たとえば、有名な「トロッコ問題」の場合、5人の作業員を助けるために1人を犠牲にするようにポイントを切り替えた方が良いと分かってても、実際に普通の人がポイントを切り替えるのは容易ではないだろう。しかし、サイコパスなら躊躇なくそれができる。つまりサイコパスはそれなりに有用だから、存在を許されているという考え方だ。CEOはサイコパスの比率が高いと言われており、冷酷さはある意味有用なのかもしれない。

もうひとつは、ダーウィンの進化論的に考えて、サイコパスが存在するのはこの世界が極めて健全だからだ、という考え方だ。もしわしらの社会が強い信頼で成り立っているのなら、その性質を逆に利用するグループが現れるのは進化論的に不可避である。もちろん、そのグループが多数派になることはない。信頼が成り立たない世界では、サイコパスの存立基盤もなくなってしまうからだ。つまり、数%のサイコパスが存在することは、この世の中が信頼で機能しているということの証拠であり、それは健全なことなのだ。(そう言われても、サイコパスにいま攻撃されている個人にはなんの慰めにもならないかもしれないが)。

ところで、サイコパスが生きにくい国というのはあるのだろうか。わしは個人的に日本はサイコパスが生きにくい国なんじゃないかと思っているが、どうなんだろう。こんなふうに考えるのは、こいつはサイコパスだなと思った人が、過去2人ぐらいしか思いつかないからなんだが、これは単なる幸運なのかもしれないな。

おまけ:タイレノール(アセトアミノフェン)について)
この本によれば、頭痛薬タイレノールに含まれるアセトアミノフェンは、頭痛のような肉体的な痛みだけでなく、心の痛みも抑える効果があり、例えば仲間はずれにされたというようなときの心の痛みを和らげる働きがあるそうだ。アセトアミノフェンは、フォン・エコノモ・ニューロンの報酬系の機能を低下させるので、サイコパスのように周りがどう思おうと気にならなくなるから、心の痛みが減るということらしい。ようするに、タイレノールを飲むと共感能力が低下する。共感能力の低下は実験により確認されている。

ミシガン大学の研究によればタイレノールが発売された1979年から30年間に、大学生の共感能力が40%低下したそうだ。ほんまかいな。そのとおりだとしても、著者の言う通り、共感能力の低下がタイレノールのせいだというのは、どうかな。相関関係はあるかもしれないが、因果関係は証明不可能じゃないかしら。

とはいえ、そう聞くと、なんかタイレノールを買って実験したくなってきた(笑)。サイコパス気分が味わえるのかしら? ChatGPTによれば、実験にはアセトアミノフェンを1000mg服用させたそうです。

★★★★☆

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