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時をかけるゆとり

朝井リョウ 文藝春秋 2014.12.10
読書日:2025.1.17

桐島、部活やめるってよ」で2009年にデビューした大学生の朝井リョウが、その頃、請け負ったらしい初エッセイ集。

直木賞を最年少で受賞した朝井リョウは紛れもなく天才である。わしもこれまで朝井リョウの本を何冊か読んだが、どれもとても感心したものである。

この本はデビューした大学生時代に書かれたもので、文庫化されたのは2014年で10年以上前の作品である。ところがこの本は図書館でも非常にたくさん予約がされている。先程、予約数を確認してみたら41件だった。とても人気なのである。(なので結構待たされた)。

わしは文学者のエッセイを読んで驚くことがある。どうでもいいような日常のことを最後まで文章力のみで読ませてしまうその力量に、である。

例えば、わしはある新聞に載った文学者のエッセイを読んでうーん、とうなってしまった。その人は、味噌汁に生卵を入れるのに凝っていて、ちょうど美味しくなる火加減とその秒数に関する内容を新聞のほぼ1面を使って書いていた。しかも、それがとても面白かった。文学者はこのように、何事であれ、文章力を駆使して読ませるプロなのだ。

このエッセイ本で朝井リョウは、早稲田の伝統行事らしい「100キロハイク」の話とか、京都までサイクリングした話とか、そういう明確なイベントについて語ったものもあるけれど、はっきり言ってどうでもいいようなテーマの話ももちろんある。でも、そういう話でも、朝井リョウは文章力を駆使し、自分の欠点を随所に織り込みつつ、いろんな視点を自由に行き来しながら自分に起こったことを書いていくのだが、それが読ませるのである。なんかすでに大物の文学者の領域に達しているがごとくである。

繰り返すが、このときまだ大学生である。二十歳を少しこえたぐらいの年齢で、こういう文章力はいかにして得られるのか。

その秘密は、直木賞をとったあとの「スかしたエッセイ」で述べられている。小学校四年生のときから毎日、方眼紙1ページに日記を書いたのだという。当然、なにも起こらない日もあったが、ともかく1ページを埋めることを続けたのである。こうしてなにかちょっとしたことを文章力を駆使して埋めるという技術の基礎ができたらしい。

そのようにして鍛えた文章力で、その3年後の小学校六年のときに読書感想文で特選をとり、さらに100ページの小説を書いて、初めてある出版社の新人賞に応募したのだそうだ。小学校六年! すごすぎる。

というわけで、当たり前だが、ちゃんとした試行錯誤と訓練の末に、若き朝井リョウの基礎は築かれていたのでした。よかったよかった。

最近どこかで読んだのだが、朝井リョウはエッセイを書くときには、まるで自分が生成AIになったかのように書いているんだという。次々に浮かび上がっていく言葉を、ジャズのようにアドリブの感覚を駆使して、読者が退屈しないように書いているのだろう。

まあ、わしはあまり小説やエッセイは読まないので、あれですが、今後も素晴らしい作品を書いていただきたいなあ、と思う次第です。

朝井リョウはどうも科学やテクノロジーが苦手らしい。ちょっと安心した(笑)。

★★★☆☆

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