森岡毅 ダイヤモンド社 2019.4.10
読書日:2025.11.30
不振のUSJを儲かるテーマパークに転換し、現在は「刀」を率いるマーケティングの第1人者の著者が自分の子供のためにキャリアの見つけ方、築き方を指南するという内容だが、それよりも本人が受けたP&G本社でのいじめとそれを乗り越えた体験の方が印象的な本。
最初は本にするつもりはなくて、子供のために書いていたそうです。大人になって就職する年齢になったので、どういう仕事についたらいいか、どういうふう会社を選んだほうがいいか、その会社(または起業)でどんなふうに自分を伸ばせばいいか、などということが書かれてあるわけです。
ところで、この本の題名は「苦しかったときの話をしようか」であり、その題名はこの本のなかのP&Gでの体験の内容を書いた章の題名でもあります。それはキャリデザインの話と関係ないことはないですが、サイドストーリーとでも言うべきものです。なぜ本筋ではないこの章の題名が本の題名になっているかと言うと、圧倒的にこの章の内容が記憶に残るからです。本筋の話よりもサイドストーリーのほうが記憶に残るってどういうこと? それは、この森岡さんの体験がサラリーマンとしてはなかなか壮絶だからです。
一流のマーケッターになることを目指してP&Gジャパンに入社した森岡さんでしたが、周りが優秀すぎて、新人の頃は結果を出せず、劣等感に襲われたそうです。また上司のひとが夜中まで一日中働くような人で、それに付き合わなくてはいけないと思い込み、睡眠時間を削って対応したそうです。この上司というのが休みの日にも電話で確認の電話を掛けてくるので、電話恐怖症になり、まったく電話に出れなくなったそうです。こうした生活を続けていくうちに、森岡さんは壊れてしまいました。
まあ、病名としては適応障害ということになるのでしょうか。こんな適応障害になるような働き方はまったくどうかしていると思いますが、面白いのは、壊れたあと、盛岡さんは必ず捨て身の反撃をしているということです。
具体的には、上司に、あなたのような働き方はできないから早く帰るし、休日の電話はやめてほしい、と直訴したそうです。上司はキョトンとして、あなたが自分と同じタイプと思ったからそうしていただけで、早く言ってくれれば良かったのに、と答えたそうです。まあ、上司本人がそうしてくれと頼んだわけではないので、キョトンとするのはわかります。
こういうことは壊れる前にやれといいたいですが、本人曰く、どこまでやると自分が壊れるのか、やってみないと分からない……。まあねえ。でもたいていの人は壊れる前に気がつくと思いますが。
面白いのは、盛岡さんはあちこちでこんなふうにぶつかるのですが、そのたびに最後には相手が助けてくれることです。このときの上司も、その後も森岡さんのことをサポートしてくれたそうですし、その後、失敗するのは確実なプロジェクトを断りきれずに受けてやっぱり失敗したときも、香港の上司がかばってくれたりしています。
なお、電話恐怖症は現在も陰をおとしており、森岡家では世間の流れに逆らって、長い間携帯電話が導入されなかったそうです。うーん。
さて、日本で成果を上げた森岡さんは本社に招かれて、パンテーンという主力商品のマーケティングを任されます。米国人を差し置いて日本人が抜擢されたので、すさまじい反発が起きたそうです。一見、米国人はフレンドリーな対応をしてくれるのですが、それはそういうスタイルがデフォルトだからで、アメリカ人は日本人以上に本音と建前を使い分けるのだそうです。
実際どんなことをされたのかと言うと、会議には呼ばれない、必要な情報が回ってこない、会議では聞き取れない早口でニューヨーク風のスラングを交えて話す、などの嫌がらせを受けます。あるプレゼンでは、プレゼン資料の表紙がポルノチックな画像に差し替えられていたそうです。直前に資料を確認するという習慣のおかげで事なきを得ましたが、このときにはさすがに悪意を認識したそうです。なお、会議での早口やスラングは、森岡さんが理解するまで何度も聞き返すので、皆がうんざりして分かるように話してくれるようになったそうです(笑)。
ウォルマートとの商談では、プレゼンをうまくやったと思っていたのに、その後マーケティング部門の大物から呼び出されて、「お前のことはよく聞いている、次からは会議に出てくるな、お前はお荷物だ、早く日本に帰れ」と罵倒されたそうです。どうやら周りがいろいろ吹き込んでいたらしいのだそうです。
こういう事があるとすぐに体調に異変が出るのが森岡さんらしく、その日は下痢になったそうです。しかし、絶対ここで引いてはだめだ、と確信した森岡さんは、次の日の朝、大物のオフィスの前に待ち構えていて、出社してきた彼に鬼の形相で、「絶対に日本に帰らない、会議にも出席する、それが自分の役目だからだ、辞めさせたいなら上に掛け合って私を首にしてほしい、私は必ず結果を出す」と宣言して立ち去ったそうです。
その後、仕事と私生活(特に家族)のごたごたのサンドウィッチ状態で、なんと血尿が出るようになったそうです。こうしてストレスフルな状態は続き、森岡さんはまたしても壊れかけました。
なお、下手くそだった英語は唯一友好的だったブラジル人の同僚に英語で録音してもらい、それを丸暗記して臨むようになったそうです。おそらく外国から来た者同士で仲良くできたのでしょう。おかげでプレゼンの英語はポルトガル語訛りだったとか。
またしても会社に行きたくないという症状が出ましたが、今回は完全に壊れる前に結果がついてきました。パンテーンが驚くべき売れ行きを示したのです。こうしてようやく結果を出した森岡さんでしたが、そうすると手のひらを返したかのように、周りがついてくるようになり、楽になったそうです。そして昇進することができました。またやりあった大物上司は、その後友だちになりました。
森岡さん曰く、『プロの世界で最初から友情や親切を期待するのは単なる「お人よし」であり、淘汰される「負け犬のマインド」であることを覚えておいて欲しい』、だそうです。
うーん、なにかのプロとして世界のトップになるということがこういうことなのだとしたら、あんまりやりたくないなあ(苦笑)。
ただ、森岡さんは、このくらいやらなきゃダメだ、と言っているわけではなくて、自分の人生の目的に合った方法を取ればいいと言っているのですが、著者の体験がちょっと強烈過ぎます。
ぜんぜん関係ないですが、森岡さんは小学校からの幼馴染と結婚したようだということが、この本から分かりました。(本当に関係ない(笑))。
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せっかくなので、本論のキャリアデザインのなんとなくのまとめ。
・自分の価値の源泉(宝)がどこにあるか知り、それを磨こう。最初は仮設住宅(仮説)でもよく、柔軟に変更してよい。
・自分を知る大まかな分け方として、自分が、T(thinking)の人、C(communicaion)の人、L(leadership)の人、の3つのどれかに当てはまるか考えるとわかりやすい。自分が好きな動詞(〜するのが好き)を100個挙げるとそれは分かる。
・会社ではなく、職能(スキル)で選ぼう。そのスキルを活かせる文脈を探そう。その文脈でのナンバーワンを目指そう。
・戦う場所で年収等も変わってくるので、自分の強みに合った環境を選ぼう。この世界は不平等な資本主義であり、資本家のために存在していることを意識して環境を選ぼう。
・配属が希望通りでなくても、自分の強みを活かせる環境になるように意識的に努力をしよう。
・つまり、自分がナスビだとわかったら、ナスビが育つ環境を見つけて、一番のナスビになるように自分から働きかけようということです。
★★★★☆

