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恐竜研究の未来 化石から見えること、見えないこと

デイヴィッド・ホーン 訳・野口正雄 原書房 2025.7.30
読書日:2025.10.3

恐竜について分かっていないことがたくさんあり、その課題が解決されそうかどうかの見込みについて述べた本。

19世紀に恐竜という動物が過去に存在したということが認識されてから、たくさんのことが分かったが、著者ホーンの言う通り、恐竜についてのついての知識が増えれば増えるほど疑問もそれに応じて増えていき、未だ恐竜についてはわからないことだらけである。

恐竜学者は、いちばん単純な疑問にも簡単には答えることができない。

たとえば、恐竜はどんな色をしていたのか。化石には色がない以上、これに答えるのは難しい。たとえ皮膚の一部が化石に残っていたとしても、化石からはそれが実際にどんな色をしていたのか分からない。しかし、研究者の熱意はすごい。たとえわずかな痕跡であっても、そこから手がかりを得ようとするのである。

皮膚の色はどのように付いているのか。脊椎動物の皮膚に色を与える色素は、メラノソームという細胞に含まれているのだそうだ。つまりメラノソームは色素の容器なのだが、何色の色素が入っているかは、容器の形で決まっているのだという。だからメラノソームの形を見れば、何色だったかが分かるのである。

なるほど、これは素晴らしい。

でも、今のところは限界がある。分かる色は、黒、白、赤の3つだけ。さらに、赤色のメラノソームがあったとしても、それが真っ赤だったのか、茶色だったのか、オレンジだったのかはわからないのである。しかも、個体の年齢、オスとメス、季節によって体の色が変わるかもしれず、この恐竜はこんな色だった、と安易に断定することはできないのである。でもまあ、すこしでも分かるのなら素晴らしいことだ。シマシマ模様だったかどうかぐらいは今後は分かるようになりそうだ。

また、発見された化石がオスかメスかを判断することも難しい。なぜならほとんどの種の化石は一体しか見つかっていないからである。一体しかなくても、それが成熟したメスの場合には、メスと判断できる可能性がある。メスは卵の殻を作るカルシウムをストックしておく骨髄骨を作っているからである。したがって幸運にも骨髄骨が見つかった場合だけ、メスだと断定できる。その他の場合は、オスとメスの2体の化石がないと難しい。つまり、化石の数が足りないということである。

というわけで、わからないことのほとんどは化石の数が足りないということに起因している。これは今後化石が増えさえすれば解決するようだ。いまのところ、世界中から解析が間に合わないほどの数の化石が続々と見つかっており、このデータは今後数10年(もしかしたら100年以上)増え続けるかもしれない。未発見の化石を調べることできっと多くのことが分かるだろう。

さらに技術の発達で、化石から取れるデータの量も増える。昔のように化石を分離しなくても、いまではCTスキャンにより立体的な形を得ることができて、コンピュータ上で組み立てることができる。さらに同じ個体の骨でなくても、別の個体の骨を体長に合わせて大きさを整えて組み合わせ、自動的にそれらしい形まで作ってくれるそうだ。もちろん、動かすことも可能で、どんなふうに身体が動いたかの推定もすぐにできるのだという。こんなふうに将来にどんな新技術が出てきて新しいデータを提供してくれるか、分からない。

現在生きている生物の研究も大幅に進んでいて、ワニ類や恐竜の唯一の生き残りである鳥類の研究の成果などは、すぐに恐竜の研究に役に立つのだという。

というわけで、恐竜学はいまのところ飽和して衰えるという状況にはなく、今後数十年は新しい知見が増えて、我々を楽しませてくれることは確実なようだ。(研究者は少なく、予算も少ないことを嘆いているけれど)

面白かったのは、すべての学問のうち、古生物学者ほど解剖学的な知見が豊富な人たちはいない、という話だった。なにしろ、化石から何でも読み取らなくてはいけないから、あらゆる解剖学的な知見を総動員するからである。いっぽう他の学問では、解剖学は退屈で、出世の見込みのない分野であり、すたれている。その結果、医学部や獣医学部で解剖学を教えている古生物学者がたくさんいるのだそうだ。

へー。これは意外でした。ちょっと笑える。

★★★★☆

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