橋本省二 講談社 2025.8.20
読書日:2025.9.22
南部陽一郎の「自発的対称性の破れ」を用いて、質量が発生するメカニズムを説明する本。
いや、陽子と中性子の質量の起源を知って、まじで感動しました。質量がこんなふうに説明されるとは。
南部の考えた質量が発生するメカニズムとは次の通り。
まず真空中というのはなにもない空間ではなくて、その最低エネルギー状態にはボーズ粒子がボーズ・アインシュタイン凝縮していると考える。左巻き粒子と左巻き反粒子が逆方向の運動量を持つ状態でペアを作ると、このペア(左巻き粒子+左巻き反粒子)はボーズ粒子になり真空の最低エネルギー状態に凝縮する。
ここに右巻き粒子が左巻き粒子の運動量の方向と反対方向から来ると、右巻き粒子は左巻き反粒子と対消滅して、左巻き粒子だけが残る。左巻き粒子の方向は右巻き粒子と反対方向だから、反対方向に進む。
ところで(右巻き粒子+右巻き反粒子)のペアもボーズ粒子となり真空の最低エネルギーレベルで凝縮しているから、先ほどの左巻き粒子は今度は右巻き反粒子と対消滅して、右巻き粒子だけが残り、最初の右巻き粒子と同じ方向に進む。
ようするに、粒子はつぎつぎ対消滅を繰り返すが、それを外から見ると同じ粒子が行きつもどりつしながら進んでいくように見える。粒子には本来質量はなく光速で進むけれど、こうして対消滅を繰り返して進むと、全体として進むスピードは光速よりも小さくなる。この結果、粒子は光速で進んでいたとしても、見かけ上の速度は光速を下回ってしまう。その結果、見かけ上、粒子は質量を持っているようにみえるんだそうだ。これが質量の起源なんだという。
なるほどなあ。
そう説明されて、一見分かったような気にはなるけど、では対消滅したときのエネルギーと運動量はどうなってしまうのか、とか、右巻き粒子と左巻き粒子が同じ方向だった場合はどうなるんだろうか、とかいろいろ疑問が思い浮かぶけど、まあ、この本は考え方のエッセンスを述べているだけのことだから、そんな細かいことについて述べていないのは仕方がないのだろう。
ここで「自発的対称性の破れ」といっているのは、カイラル対称性が破れているというもので、カイラル対称性では
右:右巻き粒子、左巻き反粒子
左:左巻き粒子、右巻き反粒子
の右と左は対称でそれぞれ無関係のはずなのに、(左巻き粒子+左巻き反粒子)や(右巻き粒子+右巻き反粒子)などのペアを作るとすると、右と左が無関係ではなくなり、ここでカイラル対称性が破れている、という意味になるんだそうだ。
ところで、質量というと有名なヒッグス粒子の話がすぐに思い浮かぶが、それはどうなったのだろうか。実はカイラル対称性は、最初から少し破れていると考えるとうまくいくという。最初から少し破れているカイラル対称性は、クウォークが持っている小さな質量(陽子や中性子の2%)を生み出すのだそうだ。そして、そのようなカイラル対称性が少し破れているような状態をつくっているのがヒッグス粒子なのだそうだ。つまりヒッグス粒子は、陽子の質量のうちの2%を担っているにすぎない。したがって南部の自発的対称性の破れが陽子や中性子の質量のほとんどを作っている。
著者の橋本さんはこのヒッグス粒子の理論に不満なんだそうだ。この理論のヒッグス場はワインボトルの底のようなポテンシャル形状を仮定していて、あまりに不自然だからだ。対称性が破れるように、「そうなるように作った」感のある理論なのだという。
まあ、疑問な点はまだまだ残っているけど、南部の自発的対称性の破れと質量の起源についてイメージできただけでも大変嬉しい。感謝。
★★★★★

