櫻井武 講談社 2017.9.1
読書日:2025.9.15
オレキシンを同定して睡眠研究をリードした櫻井さんが、睡眠について分かっていることをまとめた本。
わしも人並みに睡眠に興味がある。なぜ眠るのか、知りたい。
高等動物はすべての種で睡眠が必要なのだという。鳥とイルカは、墜落しないように飛びながら、溺れないように泳ぎながら眠るメカニズムがあるのだそうだ。こんなに複雑なメカニズムを作ってまで眠るのである。睡眠は必須なのである。
わしは小学校高学年から中学生のころは朝まで起きていて、夜明けとともに眠り、数時間眠って学校にぎりぎり行ったものである。眠るのがもったいなくてコーヒーもがぶ飲みするようになり、アルコールもタバコもお断りなのに、おかげでコーヒーに関しては一日も欠かせないくらいにカフェイン依存症になってしまった。(ちなみにわしくらいコーヒー依存症になると、夜眠るときにコーヒーを飲んだほうが心が落ち着いてよく眠れる。カフェインには興奮作用だけでなく、心を落ち着かせる作用もあるのである)。
しかしどうやら人間だけが、眠っている時間を無駄だと考えるらしい。ほとんどの動物の場合、眠っているときが正常で、覚醒しているときは餌を見つけるためなどの理由でいやいや起きているのだという。なるほど、そうなのかもしれない。
そういうわけで、覚醒している状態を維持するための特別な仕組みが作られた。それが著者が関わった、オレキシンなんだそうだ。オレキシンだけが覚醒に関わっているわけではないが、これがないと突然眠りに落ちてしまうナルコレプシーを発症してしまうのだという。どうも覚醒を維持するというのはなかなか大変なことらしい。
で、睡眠だが、よく知られているように、睡眠にはノンレム睡眠とレム随眠が繰り返し起こる。ノンレム睡眠が75%、レム睡眠が25%で、約90分の周期で繰り返される。まずノンレム睡眠が起き、続いてレム睡眠が起きる。
ノンレム睡眠では脳波の活動は脳の神経細胞の全体が同期したゆっくりとした波形になり、脳と身体の接続は保たれて寝返りも可能であり、身体は体温が下がり、呼吸もゆっくりとなる。一方、レム睡眠では脳の活動は覚醒時以上に活発化し、体温は上がり勃起までするが、脳と身体の接続は遮断されているので、身体はまったく動かない。(遮断されていないと、夢で見ているとおりに身体が動いて大変なことになる)。
この区別について、著者はコンピュータになぞらえて、次のように表現をしている。
・覚醒時:コンピュータがオンで、インターネットにもつながっているオンラインの状態。
・ノンレム睡眠:スリープモードの状態。
・レム睡眠:オフラインで動いている状態。
これは分かりやすい例えだ。
じつはノンレム睡眠とレム睡眠にどういう意味があるのか、まだ確定したものはない。著者の考えは次のようだ。
覚醒時にはいろいろ学習を行い、脳のシナプスの繋がり方が強い状態(過学習の状態)なのだそうだ。このようにシナプス強度が高い状態が睡眠負荷であり、ノンレム睡眠の間、こうした重複しているような不必要なシナプスが削除され、必要なシナプスを残して、シナプス強度を最適化して、記憶を固定化するのではないかという。なお、ノンレム睡眠中は「グリンパティックシステム」という機構で、脳内の細胞外に溜まった老廃物を除去しているんだそうだ。
一方、レム睡眠は記憶自体の固定化ではなくて、ファイルシステムの整理をしているのではないかという。つまり、ファイルの重要度の重み付けやタグ付け、あるいは階層構造化して記憶の取り出しやすさに関わっているのではないか、という。
この説明は分かったような気がするけど、いまいちよくわからない。たとえばノンレム睡眠のシナプスの削除は重要度の判断なしに行われるのだろうか、行われているのだとしたらレム睡眠のときの重要度の判断とどう違うのだろうか、などといったところがよくわからない。
でも、まあ、いまのところ実際よく分かっていないのだから、今後の研究の進展に期待かな。
この本は高等動物限定だけど、もしも睡眠が必須のものなら、下等動物での研究も知りたいところだ。下等動物にこそ睡眠の本質が現れているのではないだろうか。最近クラゲが眠っているという話がネットに流れていたことがある。本当に眠っているのかどうか判断は難しいと思うが、いろんな脳内物質が絡んでくる哺乳類の複雑な脳ではなくて、単純な神経機構を持つ動物の方が良いのではないだろうか。
★★★★☆

