恵島良太郎 幻冬舎 2025.1.25
読書日:2025.7.23
(ネタバレあり、注意)
ロアス社を起業した恵島良太郎は自分のライフプランを見直し、会社を売却(M&A)することにしたが、その方法として売却後もロアス社の成長の果実も得られる2段階エグジットの方法を取ることにする。しかし、LPS契約(Limited Partnarship Agreemet)でロアス社の経営を担うことになった水森パートナーズは、契約をたてにロアス社を食い物にするばかりか、ロアス社を合法的に乗っ取ろうと画策する。契約上は圧倒的に不利な恵島だが、対抗できるのか?
これはとても面白かった。
たぶん、著者の実体験がてんこ盛りなんだろうけど(なにしろ著者と主人公の名前が一緒)、読んでいるとM&Aって魑魅魍魎の世界だと感じる。
契約書に書かれてあることが全てなのだが、分厚い契約書のどこにどんなリスクがあるか、素人には読み取り不可能で、専門のコンサルタントが必須だ。しかも専門家がいても、難しい場合がある。結局、契約書には解釈に幅ができてしまうので、相手が善意をもって履行してくれればいいけれど、悪意を持っている人にはどうにでもできてしまう余地が出てくるわけだ。
読んでいると、へーと感心するばかり。
例えば、M&Aをする場合、仲介会社を使う場合とFA(ファイナンシャルアドバイザー)を使う場合ではどちらがいいかという話が出てくる。仲介会社の場合、売り手側ではなくて買い手側に寄り添う傾向があるんだそうだ。売り手は1回限りの付き合いだが、買い手は別の案件も買ってくれるかもしれない。そうすると、仲介会社は買い手に有利な条件に持っていこうとするんだそうだ。それに対してFAの場合は、売り手の希望を最大限尊重したスキームを作ってくれる可能性がある。
小説でもFA会社の宇野は、恵島の希望をかなえるスキームを作ってくれる。それがLPS契約を使った2段階エグジット。これは恵島がロアス社を売却後、ファンドが設立したSPC(特別目的会社)とロアス社を合併させ、その会社に恵島が売却した代金から一部出資するという方法。この方法だと、一部現金化した上に、合併した会社が上場すれば2回目の売却益を得られるという、いいとこ取りのスキームだ。この契約で恵島は新会社の80%の株式を得ることになった。
新会社の経営はファンド側(GP:ジェネラルパートナー)が担い、出資する恵島はLP(リミテッドパートナー)だが、株式の80%を握っているのだから、決定権は自分にあると恵島は思っていた。ところが、LPS契約ではGPがすべての決定権を握り、LP側には何の決定権もないことがわかる。この結果、恵島の部下たちはすべて追い出され、さらに会社が経営危機でも高額なマネジメントフィーをファンドは搾り取っていく信じられない状況になる。恵島はそれに対してなにもできない。
その後、ファンド側の経営状況が悪化したことで、勝機を掴んだ恵島がロアス社を取り戻すのだが、まあ、このへんはちょっとご都合主義的かな。でも、よくできていると思いました。
恵島の周りにはメンター役の人や心が通じ合っている部下とか、いざとなったら助けてくれる人たちがいて、この辺の人物描写もよくできていました。
著者の恵島さんはこれが初めての小説だそうで、どうやってこの小説を書いたかという点も、なかなか興味深かったです。起業家らしく、専門のチームを組んで、本職のライターも交えて全体の構成とか登場人物のキャラとかを組み上げたんだそうです。執筆は、毎日仕事が終わってから、スマホへの口述で行ったとか。次の日にはそれを読んで、間違いや展開に矛盾がないかをチェックする専門の人もいたそうです。
編集は幻冬舎の箕輪厚介でした。なぜか箕輪厚介がやっているラーメン店が小説に出てきます(苦笑)。でもラーメン店をやっているなんて知らなかったな。
恵島さんは、M&Aの経験を活かしてコンサルタントをやっているそうですけど、この本も宣伝なんですね。でも、よくできてる。
M&Aは日本ではまだよく知られていない。
最近、事業継承のM&Aが真っ盛りだけど、専門のM&A仲介会社がついていながら騙されてしまうという話を聞くことがある。例えば買い取った会社の資金をすべて吸い上げたあとに倒産させ、代金も払わないといった話だ。これはほぼ詐欺なんだけど、たとえそんなことがあっても、仲介したM&A会社はまったく助けてくれないのだ。
今後、M&Aに詳しい人がもっと増えてくれればいいね。
★★★★☆

