ベント・フリウビヤ ダン・ガードナー 訳・櫻井祐子 サンマーク出版 2024.5.10
読書日:2025.3.28
世界中のビッグプロジェクトはたいてい予算も工期も大幅に超過し、出来上がってもその便益は目標を下回っていることが多い。しかし、それを予定通りに行う方法があるといい、それを伝授する本。
これは面白かった。なにか大きなプロジェクトを実行する必要のある人は全員読んだほうがいいのではないか。
ここでいうビッグプロジェクトとは、国(自治体)や大企業が行うような大きなプロジェクトだけではない。個人的なプロジェクトも含むのである。
たとえばこの本では、個人が自宅をリフォームしようとしたら何倍もの予算と工期がかかったという例が出てくる。ようするに、失敗すると関係者に大きな負担がかかるようなプロジェクトはビッグプロジェクトなのである。失敗しても笑って済ませられるようなものならそんなに神経質になる必要はないが、大きな負債を抱えることになったりしたら笑えない。
ではどうすればいいのだろうか。それは
「ゆっくり考え、すばやく動く」
というキーワードに集約される。
つまりプランニングの段階であらゆることを検討し尽くすということである。ここに時間をかけて、それを実現するときには、すばやく一気呵成に仕上げるようにするのである。
しかしなかなかこうはいかない。例えば、政治の世界では、年度単位で予算を組む。ゆっくり考えていると来年度になってしまい、その計画自体がなくなってしまう可能性が高くなる。したがってどうしてもそのプロジェクトを推進したい政治家などは、計画がちゃんとできていなくてもとにかく工事を始めて、もう後戻りができない状況に持っていきたいのである。そのためには、承認を得やすいように予算は少なめに、工期は短く申告するというのは当たり前になる。初めから予算と工期の超過が織り込まれているようなものである。
プランニングでは、そもそも「なぜ」これをおこなうのか、というところからしっかり行わなくてはいけない。この「なぜ」の部分がしっかりしていないと、次々にプランが変わったり増えたりして、プロジェクトが無茶苦茶になってしまう。このときよくある勘違いが、世界最初とか世界最大とかなどのロマンを追うような理由をもちだすことだそうだ。予算度外視になりがちだし、参考になるものが少ないから失敗する可能性が高くなる。
予算はなるべく過去の事例を参考にする。世界最初でも似たような参考になる事例はどこかにあるという。とりあえず過去の事例の平均をとると大きく外れない。
また設計の段階で、できるだけ小さなモジュールの繰り返しになるように仕込んでおく。小さなスケールの繰り返しなら、習熟効果も働いて実行段階ではすばやく動けるという。エンパイアステートビルはどの階も同じ構造の繰り返しになっていて、作業者はだんだん慣れてきて、最後の方では最初の何倍ものスピードで建設が進んでいったそうだ。
最悪なのは、どこも同じところがなくてたくさんの異なる部品を組み合わせてひとつのものを作るプロジェクトで、このような場合はどこかひとつの部品に不具合があるだけで失敗してしまうのでリスクが大きい。原子力発電所はこのようなプロジェクトの典型だそうで、失敗する確率が高い。もっとも最近の原子力発電所の設計では、小さなモジュールを組み合わせるような発想が入っていて改善されているそうだ。
このように最初の設計段階できちんとやっておくと、お金がかかる実行の局面ではやり直しも少なくなり、お金も時間も予算の範囲に収めやすくなる。
実行段階では、ともかくすばやく行う。プロジェクトは開始すると、どんなに綿密にリスクを減らすように考えても、必ず想定外の事(ブラックスワン)が起きるのだという。これが起こる確率は時間に比例する。したがって、すばやく実行することはブラックスワンの確率を減らすことにつながるのだそうだ。
そのためには、実行者の選定では、なるべく経験者を選ぶ。よくある間違いは経験のすくない地元企業に発注するということだそうだ。そして、プロジェクトの推進者は、多くの関係者の意見のすり合わせを行い、各関係者の要望をなるべくすばやく実現して、工期を短くすることに集中する。こうすればリスクを下げられるだけではなく、作業者たちが自分たちのことをきちんと見てくれていると感じて、現場に一体感が生まれやすいという。
ベント・フリウビヤはデンマークの人で、ネパールに学校を多数建築するというプロジェクトを予算通りの成功に導いた経験を持つ。あるとき、コンサルタント会社のマッキンゼーにITプロジェクトの進め方について相談を受け、さまざまなメガプロジェクトに調べたところ、ほぼすべてのプロジェクトで予算、工期が超過し、便益が少ないということが分かって驚いたのだそうだ。こうしてこの世界に入ったのだという。世界中のさまざまなビッグプロジェクトのデータベースを構築した。
わしが一番良いと思った例は、アニメ会社のピクサーが実際にCGアニメを作る前に、平均9回の動かない絵で作った試作品を作るというところかな。この試作品も相当お金がかかるけど、実際にCGで実物を作りながら修正するよりも遥かに安上がりで、映画が成功する可能性を高くするのだそうだ。
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