小葉松真理 太郎次郎社エディタス 2024.11.20
読書日:2025.3.16
農業に関心があっても、資金なし、技術なし、土地なしで新規就農に躊躇しているひとに、全国の農場を渡り歩くフリーランスの方法があるよ、と教えてくれる本。
なにしろ日本全国どこも人手不足である。もちろん農業も例外ではない、というか他の業種以上に人手不足である。そして農業は、特定の時期に、たとえば収穫の時期にむちゃくちゃ人手が必要なのに、人手があまり必要としない時期もあったりして、繁閑の差がはげしい。忙しいときのときのためだけに、一年中人を雇うわけにもいかない。一方で、日本は南北に長く、常にどこかの農場が繁忙期である。どこかで必ず局所的に人手不足が発生しているのだ。
というわけで、うまく繁忙期の地域を渡り歩くと、農業に携わりながらそれなりの収入が得られる可能性がある。
なるほどなあ、と思った。確かにそうだ。
著者の小葉松さんは北海道の新聞社に勤めていたが、農業をやりたくなって、仕事を辞めてしまった。そのとき就農のあてがあったわけではなくて、とりあえず知り合いの農場を手伝うなどして、さらにツテをたどって北海道以外の日本のあちこちの農場を手伝っているうちに、フリーランスでもやっていけるんじゃね、と考えるようになり、フリーランス農家というコンセプトにたどり着いたのである。
これは小葉松さんにとっては良かっただろう。なにしろ、彼女は好奇心旺盛で、どうも1か所にじっとしていられるようなタイプではないからである。(どこかでじっくり農業をするには致命的な欠陥のような気が……)。
さらに農業に必要とされるのは実際の農作業とは限らない。
最近では農業は6次産業化していて、作物をつくるだけでなく(1次)、加工品を作るとか(2次)、料理店を開くとかのサービス(3次)とか複合的な発想が必要である。
しかしそんなことを試みたいと思っても、現場の人にはあまりに作業が多くあるので(もう無限と思えるほど)、そんなアイディアを考える暇も実行する暇もない。だからそんなアイディアを出せる人や実行できる人をどの地域も求めている。
そうすると、各地の先進的な事例を肌で知っている彼女は、頼まれて新製品の開発やら新規の販売方法の開拓やらをすることになる。
農業になんとか関心を持ってもらおうと、興味ある人に現地に来てもらって農業を体験してもらうという事業も盛んで、こうした事業に政府や自治体からお金が出ている。こうしたコーディネートの仕事もあったりする。
彼女の特殊例になるかもしれないが、フリーランス農家のアイディアを発表すると、マイナビ農業から連載を頼まれて、ライターの仕事もすることになったりする。というわけで、フリーランス農家の仕事の間口はとても幅広いんだそうだ。
どのくらいの年収になるかは、なかなか難しい話だとは思うが、とりあえず農場を手伝っている間は、住む場所は相手が用意してくれるし、そんなに生活費はかからなさそうだ。
結婚したり子供ができたりしたらどうするんだ、とかいろいろ疑問はありますが、そのときはそのときで、なにか技を考え出して乗り切るしかないでしょうね。フリーランスならではの突破口があるのか、それとも本格的に就農を行うのか、よくわかりませんが。
いま、米の値段が前年の倍になって、農水省が慌てて備蓄米を放出したりしていますが、農業人口が減っていくと、あらゆる農産物が高くなることも考えられますね。成功して大金を稼いでいる農家もこの本では紹介されています。冒険投資家のジム・ロジャーズがかねがね言っているように、これからの女の子は農家に嫁ぐのが、ひとつのアイディアかもしれませんね。
一番面白かったのは、東京で働きながら、月に一回石垣島にやってきてパインを作っている女性二人の話かな。そのくらいの作業量で本当に農業ができるんなら画期的じゃない? 兼業農家という考え方自体は普通だけど、東京と石垣島というのがすごい。
それにしてもいつも思うんですが、食料って化学合成で作れないんですかね?
★★★★☆