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個人投資家目線の読書録

地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団

森功 講談社 2018.12.4
読書日:2025.2.24

積水ハウスが55億円騙された事件やアパホテルが12億円騙された事件など、地主になりすまして土地を売ってしまうという、ネットフリックスの「地面師たち」の原作の元ネタになったノンフィクション。(注:ネットフリックスのドラマは見ていません)

この本にいろいろな事件が述べられているわけですが、登場人物が同じなのにびっくりします。つまり、地面師はほとんど逮捕されないし、逮捕されても不起訴になることが多いし、最悪、懲役になっても数年で刑務所を出てきてしまうので、同じ人間が何度もやるわけです。内田マイク(これが本名)や北田文明というフィクサーの名前が何度も出てきます。

基本的なスキームはこんな感じ。まず誰もが買いたがるような物件があり、その地主が病気だったり行方不明だったりというその土地を管理できないような状況があると、その地主になりすまして売ってしまうか、あるいは土地を担保に融資をうけるというもの。

ここで地主やその関係者が気がついたり、不動産登記が拒否されたりすれば事件として発覚するけれど、実際に土地の登記ができてしまう場合もある。そうして土地が無関係な第三者が手に入れて何年も経つと既成事実化してしまい、取り返すのが不可能になってしまうこともある。縁故者のない地主が死亡してしまい、国の土地になったはずなのに取り返せなくなったという事例もあるというから、びっくりである。こうなると裁判を起こしても負ける可能性が高いんだそうだ。

地面師たちは役割が決まっていて、案件ごとにプロジェクトチームを組んで仕事をする。だいたい10名くらいでチームを組むという。

まず犯行計画を立てる主犯格のボスがいる。この犯行計画を立てられる者がなかなかいない。物件ごとに最適なスキームを考え出して役割を割り振るのだが、これがかなり難しいらしい。なので新人がなかなか現れず、同じ人物が何度も出てくる。

手配師」というのは地主になりすます者を探し出して、演技指導とかをする役。大物の手配師には秋葉紘子(あきばこうこ)という人物がいる。日ごろ各施設の清掃員として働き、高齢者をスカウトしているんだそうだ。なりすましの高齢者は、必要なことを記憶して話せるくらいには頭がよく、それ以外はすこしボケているくらいが丁度いいらしい。被害者に会わせるのは1回きり、短時間が基本だそうだ。

その他、書類を偽造する「印刷屋」(あるいは「工場」「道具屋」)、振り込み口座を用意する「銀行屋」(あるいは「口座屋」)、法的処理を行う弁護士や司法書士の「法律屋」などがいる。

無関係な第三者を巻き込んで事件を複雑にするのが常套手段で、不動産は数日、数週間という短期間に何社も絡んで売買し、結果として誰が被害者で誰が加害者なのかわかりにくくする。たとえ警察に捕まっても、自分も被害者だと主張できる。警察は本当の被害者すらもグルなのではないかと疑心暗鬼になる。さらに、警視庁二課は地面師たちの摘発にそれなりに熱心だけれど、所轄の警察はこういう事件には無関心のように見える。

こんな具合なので、事件として成立せず、うやむやになった案件が多数あるのではないかと言われているそうだ。著者の推定では年間50〜100件ほどの事件がうやむやになっているという。(日経ビジネスオンライン2025.1.9の記事による)

フィクサーの人たちって、この仕事を楽しんでいるように見えるんだけど、だれかインタビュー取ってきてくれないかなあ。

なお、内田マイクは現在71歳、懲役12年で服役中で、2024年11月に、積水ハウス事件で10億円賠償の判決が出ています。

★★★★☆

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