リンボウ先生こと林望が趣味について、どんなものが良いとか、どんなふうに取り組めばよいかなどを読者に自分の考えを示すつもりの本であるが、実際には先生の趣味の物凄さにただただ驚いて終わる本。
まずはじめにネタバレを済ましてしまうと、林望はずっと詩人になりたかったそうで、なので本人的には人生最後に残る趣味は詩作になるそうです。この本の題名の答えはこれであっさり終わるわけですが、しかし、林望の趣味の話を読んでいると、これはもう趣味の範疇を完全に超えちゃっているわけです。
まず、なにかを趣味にしたら、それをどのくらい極めればいいかというと、少なくとも下手なプロのレベルまでは極めないといけないんだそうです。それってもう趣味じゃなくてプロじゃん。かような信念をお持ちなので、やっている趣味はことごとく仕事に結びついているわけです。
・詩人を目指していたが、いまでは歌曲の作詞をしており、さらに頼まれて校歌の作詞もやっており、すでに200曲に達している。
・能の日本文学への影響に驚き、大学生の頃から能の修行をはじめ、地謡方として出演している。さらに能に関する本を多数出して、それらはロングセラーになっている。
・ロンドンに留学したとき能を謡ったら、声楽を習ったほうがいいと言われ、その気になって、芸術大学に喜んで任官すると、声楽は習い放題、いまでは毎年コンサートを開いている。もちろん、これが歌曲の作詞にもつながっている。
・子供の頃から絵を描くのが好きで、自分の本の挿絵を描いている。
・写真も趣味で、自分の旅行記にも独特の感性の写真を使っている。
・収集癖もあり、大学生の頃から好きな川瀬巴水(はすい)の版画の収集をはじめた。のちに川瀬巴水が有名になると、その本を出したりしている。もちろんコレクションは大変な資産になっている。それ以外にも、誰にも見向きがされていない独特の感性で集め、今後価値が出ると自分が思っているコレクションは多数あるらしい。
・料理も自宅の料理はリンボウ先生が作っているんだそうだ。孫たちが来ると、ひとりひとり食べたいものを作ってあげるのが定番の過ごし方だという。どうりで料理に関する本も多いわけだ。
これだけ趣味と称するものがあると、当然時間が足りないので、時間が最も大切なものだという。というか、たぶんリンボウ先生は、戦略的に自分の趣味を自己プロデュースして、仕事として取り込むことで時間を節約している。趣味が次の趣味につながってどんどん広がっていくが、各趣味が下手なプロレベルくらいないと仕事として取り込めないということなのだろう。趣味と実益を兼ねる、これこそ願ったり叶ったりなのだ。
聞けば、最初の本、「イギリスはおいしい」も、どこからか注文があったわけでもなく、自分で勝手に書いて出版社に売り込んだのだという。何社にも断られて、原稿料なし・印税のみ、の条件でようやく一社が出してくれたそうだ。しかも挿絵は自分で描いたから究極の低コスト出版だったわけだ。それがベストセラーになって、趣味を仕事として回していく下地ができたわけだ。
なんかすごすぎるなあ、リンボウ先生。
さて、わしの趣味はいったいなんだろう。読書?(笑)
でもどうもわしにとって、読書って趣味という感じがしないんだよね。一方で、現在、会社で給料をもらうためにやっている仕事も、どうも仕事っていう気がしない。趣味とか仕事っていう観念がわしにはあるのかなあ。
そう考えているうちに、なぜそんな感覚なのかわかった。わしは仕事も仕事以外のことも、だらだらやっているからなんだね(苦笑)。一生懸命やっていないんだから、仕事とも趣味とも言えるはずがない。
だらだら、最高だよね(笑)。
★★★☆☆