高野秀行 本の雑誌社 2025.01.23
読書日:2025.2.2
2019年にエチオピアのパルショータという酒しか摂らないという謎の民族の情報をキャッチして以来、ぜひ行ってみたいと思っていた高野秀行が、TBSのクレイジージャーニーという番組に乗じてエチオピアのコンソとデラシャの村を訪ねた探訪記。
図書館を利用して、最近はめったに本を買わなくなったわしですが、この本は誘惑に負けて予約注文してしまいました。書名からしてあまりにバカすぎる(苦笑)。世界の秘境のこんなトリッキーな情報に行きあたってしまう高野秀行には感嘆するばかりです。本当に人類は多様性に満ちていますねえ。
今回の旅はTV番組の撮影ということで、いつもと勝手が違う部分もあります。一番の違いは一発勝負というところでしょうか。
いつもなら、何度か現地を訪問して、思い違いや現地とのコミュニケーションの齟齬を解決しながら目的を達成する高野ですが、今回は自分で事前調査に行くことが叶いませんでした。というか、いまエチオピアは内戦状態でそもそも簡単に行けないそうだ。今回のTV取材でビザがおりたこと自体が奇跡のようなものだったらしい。
そういうわけで、現地のコーディネーターに段取りを任せて、TVクルーと現地に向かったわけです。ただしビザが間に合わず、出発は予定より一週間遅れになってしまいました。また、好きなだけ現地にいるというわけにはいかず、二週間という期限が切られています。
トラブル必至の撮影旅行で、実際トラブル続出なのですが、一番笑ったのは、デラシャで遭遇した偽物家族でしょうか。
コーディエーターには現地の住民と一緒に暮らしたいと希望を伝えていたのですが、出発が遅れたので当初予定していた家庭では過ごせなくなったようです。それでは申し訳ないと思ったのか(というかお金がもらえないと思ったのか)、村の役人がある一人で暮らしているおばあさんの家に村から人を集めて、そこで家族を演じさせていたという事件です。
最初は何も知らないから、変なことが起きてもそんなものかと思って過ごしていたのですが、あまりにもおかしいので、次の日には偽物家族だと気がついたわけです(笑)。苦情を言って、普通の家族の家で過ごすことができたのですが、なかなかあり得ない面白い経験です。
日数が限られている中では、一日のロスは痛かったかもしれません。もっとも高野自身はトラブルがあるとやっと旅らしくなってきたと思う体質のようですが(笑)。
肝心の主食が酒かどうかという点ですが、これは本当でした。さすがに酒だけということはなく、少しは固形物も摂るのですが、大人も子供も女も一日中お酒をぐびぐび飲んでいます。畑のそばの小屋に出向くときには、お酒だけ持ってそこで何日も泊まって仕事をしたりしています。それでべつに健康には問題はない、というかすこぶる健康なのです。現地の医者も問題ないとの見解。(医者はデラシャのひとなので当然という気もしますが)。
どうもコンソとデラシャの人たちは、他の民族との争いに負けて、この不便な地に移ってきて、それが酒を中心とする食事に繋がっているようです。しかも、コンソとデラシャもお互いに戦争をしているんだとか(両方の部族ともに兵士がいる)。エチオピア国内の政治事情はなかなか複雑です。
今回の旅はそもそも本にする気はなかったのだそう。しかし、TVで放送されたのは前半のコンソ村の出来事だけ。どうもデラシャで起こったドタバタはTV放送には複雑すぎてシンプルなストーリーにならないためらしい。しかもデラシャよりコンソの村の景観のほうが映像的に映えるという事情もあったらしい。
というわけで、全容を伝えるために、本にしたようです。クレイジージャーニーの方は、U-EXTで見られるようだから、今度見てみようかな。
高野は旅に出ると、毎日、何時間もその日あったことを詳細な日記作成にあてているらしい。まるで人類学者のフィールドワークみたい、というかそのものなんだろうね。
(2025.2.28追記) 今日、暇だったので、クレイジージャーニーを見てみるかと思って、u-nextにアクセスしてみたが、高野の回(2023.12.4放送)はなかった。あれま。つまんなくて削除されたのかしらね(苦笑)。
★★★☆☆