ヨハン・ノルベリ ニューズピックス 2024.9.30
読書日:2025.2.5
脱グローバル化、製造業の国内回帰が叫ばれる今という時代に、もう一度グローバル化、自由市場がこれまで人類にもたらした多大な恩恵を見つめ直し、資本主義が過去の問題を解決してきたのと同じように、今の課題も将来の課題も資本主義により解決するのが最も合理的と主張する本。
ノルベリはスウェーデン人で、税金が高く、国家の社会保障が充実している社会主義的な国の出身なのだが、資本主義を高く評価し、グローバル化と自由主義を進めるべきだと強く主張する。基本的には、古典的リベラリスト(ジョン・ロックなど)と同じ立場なんだそうだ。
その理由は、なにか解決すべき問題があると、その解決策は多くの人がいろいろな方法を試みるのがもっとも効率的だからで、解決策を試みるように促す強力なインセンティブを資本主義は持っているからである。つまりは国家が行うような中央集権的な垂直統合よりも、市場の行う水平分散の方がよいと言っているわけだ。
もちろん資本主義には欠点がたくさんあるが、その欠点よりも利点の方が遥かに上回ると主張し、この本は延々とそれを述べている。例えば、次のようなことを主張している。
・グローバル化のおかげで世界の極貧率は29%から8.4%に下がった。その他の指標でも、グローバル化によって世界は大幅に改善している。
・市場経済を採用した国が発展し、国家の統制を強めた国が停滞、衰退している。
・経済成長するから貧困者を救える。
・資本主義は階級社会を破壊する。例えばインドのカースト制度は弱まっている。
まあ、この辺はいいけど、グローバル化、自由主義に反対する最近のトピックスへの反論はちょっと苦しい。
・ブルシット・ジョブが増えているというのは質問が間違っている。自分の仕事が人類に貢献しているか、などという高いハードルの質問がブルシット・ジョブが増えている原因だ。(そうかなあ?)。
・ギグ・エコノミーが増えているのは、ほとんどが次の職までの繋ぎや副業だから問題ない。(ギグ・エコノミーが本職になっている人も多いのでは)
・アメリカのラストベルト地帯の貧困化、「絶望死」の発生は例外的で、他の地域は良くなっている。そもそもアメリカの貧困対策が給付中心で、再教育をしないのが問題で資本主義の問題ではない。(とは言っても、ラストベルト地帯の貧困がトランプのアメリカを生んでいる以上、例外と無視できないのでは?)
資本主義の欠点として上位1%と99%の格差があがることも多い。これについてはどう反論しているのかしら?
・中産階級は没落していない。中産階級は減ったが落ちたのではなく上の階級に上がったのだ。(データとしてあげている所得の数値はインフレ調整しているのかしら?)
・ピケティの以下の主張、「r(利子)>g(所得の増加)」が成り立っているせいで階級が固定化している、というのはおかしい。超お金持ちの70%は次の世代で消え、孫世代では90%が消えている。(単に一族の資産管理会社の所有になって、タックスヘイブンに移って見えなくなっているだけなのでは?)
・ピケティの理論はそもそも間違っている。資本所得(利子)の上昇はほとんど住宅価格の上昇で説明できる。住宅価格を除くと資本所得(利子)の割合は安定していて増えていない。(これは、なるほどと思った)。
わしはお金持ちがどれだけお金持ちになっても、下の人のレベルが持ち上がって、お金持ちに「だから?」と言えるような社会を目指していて、あまり格差解消は重視していないので、格差の議論はまあ、いいや。
さらに、国家の産業政策はすべて間違っているという、国家のイノベーション関与に反対という主張はどうか。驚いたことにノルベリは、国家が主導してイノベーションを起こすことができたのは、アポロ計画だけだというのだ。たとえば、次のように主張している。
・インターネットが、核攻撃があっても耐えられる通信ネットワークを作ろうとした軍主導の開発プロジェクトだったというのは後付で、間違い。実際には現場の技術者がたくさんの端末で各所のコンピュータにアクセスするのを面倒に思ったことが動機で国家は関係ない。
・連邦政府のプロジェクトで元が取れたのはNASAの通信衛星しかない。
・国家よりポルノ産業のほうが技術発展に寄与している。(これはたぶん本当(苦笑))
・そもそも国家予算がGDPの半分を占めるこの世界では、どんなことにも国家はちょっとは絡んでいるから、なんでも国家のおかげと主張するのは容易で、意味がない。
だそうです。
国家の産業政策がうまくいかないことはその通りだと思いますが、基礎研究における国家の役割はやっぱり大きいと思いますけどねえ。たとえば、量子コンピュータや機械学習(AI)の基礎研究も大学で行われたわけだし。車の自動運転が急速に発展したのもDARPAの開いたコンテストのおかげだし、アポロ以外はうまくいっていないというのはちょっと言い過ぎなのでは、という気もしますけどねえ。
その他、環境問題すら資本主義を利用したほうがうまくいくという。つまりひとつのうまくいく方法があるわけではなく、たくさんの試みが必要だし、最適な組み合わせは誰にも計算不可能だから。まあ、確かにそうかも。
そして市場経済が発展している国ほど、幸福度が高く、それは徐々に増えているという。(子供の自殺が過去最高を更新している日本は例外かな?それとも、日本は市場経済とは言えない?)
まあ、突っ込みどころは満載だけど、わしは基本的に資本主義と自由市場には賛成なので、べつにいい。ただし、わしはグローバル化には最近、疑問を持っている。そもそもグローバル化がアメリカの海軍に維持されていることを考えると、今後もグローバル化は当てにできるのだろうか。なんとかなると踏んでいますが、とても不安。
★★★★☆