柴那典(とものり) 講談社 2016.12.1
読書日:2025.12.15
CDが売れなくなり、音楽ビジネスは曲を売らずにライブが中心になっていく一方、海外の音楽(洋楽)にまったくコンプレックスがない世代が台頭し、今後は日本オリジナルのJ−POPが世界に進出していくという見通しを9年前に示した本。(題名から受ける印象と違って悲観的な内容ではない)。
9年前の本なので、もう当たり前の認識になっているところも多いと思いますが、しかし、わしはそもそも音楽のことはほとんど知らないわけでして、なかなか興味深く読ませていただきました。
たとえば、J−POPという言葉がいつ生まれたとか、日本人から洋楽へのコンプレックスが消えたのはいつ頃なのか、というところはなかなか面白かったです。へー、そうなんだ、という感じ。
J−POPという言葉は、1988年に設立されたFMラジオ局J−WAVEで生まれたそうです。洋楽中心のFMラジオで邦楽を流すときにそれをどう呼ぶかに困って、アメリカンポップスという言葉があるからJポップで行こう、となったそう。
この頃の日本のアーティストは洋楽にコンプレックスを持っていたんだそうです。洋楽をどうやって日本で表現するかが大問題だったのだとか。それを初めてやってみせたのが「はっぴいえんど」だそうで、「はっぴいえんど」自体はそんなに売れなかったけど、日本ミュージック界の大事件だったのだそう。このときのメンバーが次の時代を引っ張ったのだそうだ。へー。
ようやくアメリカにコンプレックスがなくなったのが、2006年デビューのいきものがかりの頃だそうで、いきものがかりの水野良樹は、海外じゃなくてJ−POPの過去をどんどんさかのぼって勉強していたんだそうです。すみませんが、日本のアーティストが洋楽にコンプレックスを持っていたことも知りませんでした(苦笑)。そもそも日本の音楽だと思っていた演歌すら、日本オリジナルのものじゃなくて、洋楽を日本に合うように工夫したものだそうで、なんというか、びっくりです。
そうすると、日本のポップス界がほんとうの意味で独自性を出してきたのが、たかだかここ20年くらいなわけなんですね。なるほど、最近ようやく世界で認められるJ−POPが増えてきたような気がする理由が分かってきました。オリジナルを出せないようでは、世界的な潮流にならないのも当然ですからね。
ビジネス的には、CDが売れなくなって配信とライブが中心になって、ヒットの指標もよくわからなくなり、老若男女が歌えるヒットもなくなり、にもか関わらずCDが売れなくても長く続くアーティストが増えてきたとか、ネットが中心になったからロングテールの経済になるかと思えば、逆に売れるアーティストがますます売れるというネットによるブロックバスター化も出てきたりとか、今に通じる現象も述べられています。まあ、この本のなかでいちばん大事なのは、2015年に縮んでいた音楽事業が世界で初めて成長に転じたことなんじゃないでしょうか。
なお、わしはよく在宅でJ−POPを流しながら仕事をしたりしていて、妻がそれを聞いて「ミセスグリーンアップルは本当に天才的」と褒めているのを聞いたりするのですが、ミセスグリーンアップルを聞いても、どこがすごいのかさっぱりわかりません(苦笑)。
**** 日本文化の海外躍進 ****
最近ですねえ、日本文化の世界への進出が激しいわけです。マンガとアニメはまあ、他にはないものなのでそれなりに分かるのですが、J−POPも世界に受け入れられ始めていて、NHKスペシャルで特集されていましたし、どうもJ−POPも世界にない日本オリジナルの音楽として認められつつあるようです。
(https://www.nhk.jp/g/music/blog/t9hya8vsgx82/)
K−POPも躍進しているわけですが、あまり音楽に詳しくないわしでも、K−POPは少々多様性に乏しいように思えます。特定の戦略が当たると、すべてその方向で突き進んでいく風潮が韓国にはあるように思います。それに対して、日本の場合は、なんというか出自が異なる多様な音楽に溢れているように思います。無駄と言えるくらいの多様性こそ、日本文化の特徴のように思うんですね。観光でもどの地域にも観光資源が溢れているわけですし、ビジネスでもニッチ企業の宝庫になっていて、その多様性、複雑性はほとんど世界に例を見ないわけです。だから、わしは日本は文化も特定のフォーマットに固まるのではなく、多様な複雑な、ともかくいろいろあるという方向で突き進んでいくべきだと信じているわけです。
(https://www.hetareyan.com/entry/2024/06/26/000200)
最近、日本の小説が海外でベストセラーになっているというのも、なんかすごいですね。英国で売れている小説の25%が日本の小説なんだとか。そのなかで、一番売れているのが、柚木麻子の「バター」なんですからねえ。
https://gigazine.net/news/20241127-japanese-fiction-britain-translation-boom/
https://www.hetareyan.com/entry/2021/12/18/010740
昔、ハンティントンの「文明の衝突」を読んだときに、日本がどこの文明にも属さないまったくオリジナルの文明に分類されていてびっくりしたことがありますが、もしかしたら本当に日本文化は「日本文明」なのかしらね。(文明と文化の違いは、その国にとどまるか、その他の国に影響を及ぼして一般化するかどうかの違い……だと思う、たぶん)。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%87%E6%98%8E%E3%81%AE%E8%A1%9D%E7%AA%81
★★★☆☆