エイドリアン・べジャン J・ペダー・ゼイン 訳・柴田裕之 解説・木村繁男
読書日:2024.12.25
流れがあるところでは、その形状は、一番流れやすくなるデザインに進化する、という法則が成り立っていると主張する本。
なーるほど、という感じの主張で、自然を少しでも観察したことのある人なら、これは誰もが認めざるを得ないでしょう。たとえば川があるとする。すると、水はもっとも抵抗が小さく、もっとも流れやすい方向に流れる。そうなるためには川のデザインには一定の法則があるというのだ。
この法則のことを、著者は「コンストラクタル法則」と名付ける。この法則は物理法則であり、生物か無生物かには関係なく流れがあるところ全てに成り立つという。例えば、交通などの流れもそうだし、人間の社会構造も情報の流れと見ればこの法則が成り立つという。
ベジャンはもともと放熱関係の研究者なんだそうで、機器で発生した熱をできるだけ素早く放熱させるような設計を仕事にしていて、この分野では世界的な第一人者なのだそうだ。なるほど、効率的な熱の流れを考えているうちにコンストラクタル法則に行き着いたというわけだ。
で、著者によれば、この原則は数学的に処理できるそうで、たとえば川の流れ方のデザインならば、川の本流に流れ込む最適な支流の数というのが計算できるんだそうだ。コンストラクタル法則によれば、最適な支流の数は4になる。で、実際の川でも、支流の数は3〜5の間になるのだという。また、川幅と川の深さは比例関係になることが証明できるんだそうだ。この辺の数学的な取り扱いは、この本ではなるべく数式を排除しているので記載されていないのだが、こんなことが本当に純粋に数学で計算ができるとしたら驚きだ。
他にもいろいろな例が載っているのだが、例えば、血管の断面形状は円形で、分かれるときには2つに分かれ、面積がちょうど半分になるようにするのがもっとも抵抗が少なくなるといい、実際に血管はそうなっているという。
水の流れ方には、スムーズに流れる層流と渦を巻いて乱れる乱流があるが、コンストラクタル法則によれば、その層流と乱流が切り変わるポイントを正確に計算することができるそうだ。乱流って、流れが乱れているから抵抗が高いように思われるが、実際には流れが速いときには乱流のほうが流れの抵抗が少なくなるんだそうだ。この例は少し計算が載っている。
木の形や、動物の形のデザインもその大きさや動きに最適な形状があり、その結果、異なった種でも進化するうちに同じような形になる収斂進化(たとえばコウモリと鳥が似ているとか)が説明できるという。
まあ、こういうことがいろいろ書いてあるのだが、気になったのは、法則は言葉で表現されているだけで、たとえばニュートンの第2法則みたいな、すべてを説明する統一的な方程式はないようだ。どうも、実際には対象によってひとつひとつモデルを作っている印象だ。そうすると、最適なモデルをどう作るかという点が、研究者のセンスにゆだねられているように見える。その辺がちょっと弱い気がするなあ。
コンストラクタル法則は人間の社会構造にも適用できるそうで、人間社会の場合は、情報がなるべく抵抗なく流れるように進化するのだそうだ。この条件では、人間社会は必然的に階層構造になるという。会社ではCEOのトップの下に社員が階層状に並んでいて、国だったらトップの首相や大統領の下に階層状に国民がいる。階層構造になるということは、つまり上に立つエリートがおり、階級ができるということだ。コンストラクタル理論のように、階級があったほうが良いという理論は人々の共感をあまり呼ばず、評判が悪いという。しかしコンストラクタル法則に従えばこうなるのは仕方がないという。
橘玲が「テクノ・リバタリアン」でコンストラクタル法則を引用して、人間社会が階級社会になるのは仕方がないと言っているのはこの部分なのだろう。
でもこの本を読む限りは、情報がよりスムーズに流れるためには階層構造を取らざるを得ないと言っているだけで、階層構造を構成する個々の人たちが、そのほうが自由だとか、幸福だということとは無関係のように見える。自由だろうが不自由だろうが、進化すれば階層構造を取るということである。
わしも別段、階層構造を取ること自体は問題だとは思わない。わしはどの階層の人だろうと、個人の自由が守られてある程度の富が分配されて然るべきだと思っているだけである。わしが目指す社会は、エリートの人がいくらお金を稼いでも、「それがどうかしました?」と言える社会である。
なので、そんなに気にしなくてもいいんじゃないかなあ。
★★★★★