小山さんノートワークショップ編 エトセトラブックス 2023.10.30
読書日:2024.11.26
文学を志して東京に出てきた小山さんは、1991年にホームレスになり、公園でブルーシートのテントで暮らすようになったが、2013年に亡くなった。そのあと、人々が膨大な日記が残されているのに気が付き、協力してテキスト起こしをしたものを抜粋した本。載っているのは2004年まで。
ちょっと近年読んだ本の中では、なかなか衝撃的な本だった。なまなましいテント村の様子がそのまま記されているのだから。
小山さんはテント村では数少ない女性なので、男性も放っておかない。テント村に来るまで一緒に暮らしてきた「共の人」が勝手に小山さんのテントに引っ越してきたり、共の人が亡くなったあとは、ボスやクマと言われる人たちが、小山さんの周囲をうろついている。彼らの特徴はDV体質だということで、突然気が狂ったように暴れて暴力をふるい、小山さんの持ち物を破壊したりする。そして、それがおさまると、今度は何事もなかったように優しくなったりする。
小山さんはこういう男性となんとか距離を取ろうとして苦労する。しかし小山さんはもともと生活力が乏しい人なので、彼らの提供してくれる物資が必要だったりするのだ。
しかしまあ、それは女性から見たら身につまされる話かもしれないが、男性のわしから見ると、やっぱり個人的に耐えられないのは、10円、100円に一喜一憂する極端な貧困の状態で、ひりひりするような状態が毎日続いて、まったく心が休まらないことだ。
こういう小山さんが逃げ場所にしていたのが喫茶店で、200円ぐらいのコーヒー一杯で何時間もねばって、ノートを読み返したり、書いたりしていたのだ。お酒もタバコも必要な小山さんだったが、お金が入ると空腹を満たしたりすることよりも喫茶店に行くことを優先していて、喫茶店で数時間過ごすことでなんとか精神状態をもとに戻すような状況だった。なお、小山さんは常に身奇麗にしていたらしく、とくに喫茶店でも問題になることはなかったようだ。
この気持ちはとてもよくわかる。わしも喫茶店が大好きで、日常どこかに出かけるところといえば、喫茶店になってしまうから。わしもたぶん貧乏になっても、喫茶店に行くお金だけは確保しようとするだろう。喫茶店を必要とする人はたくさんいる。それは閉店間際まで多くの人たちが残っているのをみても分かる。
そんなひりひりした部分のせいで、最初は読むのが辛かったりするのだが、読んでいるとそのうち慣れてくる(笑)。なにしろ、ずっと同じ調子が続いているのだから。人間は、何事にも慣れるのかもしれない。
小山さんは、2000年代に入ると、空想の世界に浸るようになる。この頃には、男性の干渉も減ってきたのか、あまり記載がない。孤独の中で正常を保つのが、空想の友人ルーラとパリの街で遊ぶことなのだ。ただし本人はこれが幻想だということをしっかり認識している。
全体としての印象は、小山さんは林芙美子の失敗したバージョンという感じだ。林芙美子は「放浪記」で世に出るまでは、東京に出てきたあと極貧の生活を送り、男たちに翻弄されて生きてきた。「放浪記」が成功していなかったら、林芙美子もホームレスになった可能性はあっただろう。
ただし、小山さんが失敗したのは、文学で世に出ることができなかったことだけで、その人生が失敗したのかどうかはなんとも言えない。わしは、人生に成功も失敗もないと考えている。
★★★★☆