ヘタレ投資家ヘタレイヤンの読書録

個人投資家目線の読書録

弱い円の正体 仮面の黒字国・日本

唐鎌大輔 日経BP 2024.7.8
読書日:2024.10.23

日本は経常黒字であるが、経常黒字のほとんどは海外における第一次所得であり、その大部分は現地に再投資されて日本に戻ってこないので日本円に替えられることはなく、その結果お金はキャッシュフローベースで日本から出て行っているから円安になっている、と主張する本。

読んでいて、不思議な気がした。

わしは日本の経常黒字が日本に戻ってきていないことはすでに常識だと思っていたのである。しかし、この本がこれほど多くの人に感銘を与え、著者本人もこれは「仮説だ」と何度も言明しているから、どうも常識ではなかったらしい。

もう一つ不思議なのは、実質的に(この本の言葉ではキャッシュフローベースで)赤字の結果、円安になっているのだが、それは問題だという認識らしいことである。わし的には、円安になることはまったく問題ではない。というか、そうなるのが当然で、それでいいのである。

海外で稼いだお金は日本に戻ってこなくてもいいのである。お金はもっとも稼げるところに行くのが当然だ。日本では稼げなくなったから海外へ行ったのであって、日本に戻ってきてもらっても困るのである。

日本に存在しないとどうも日本の富ではないという気がするかもしれないが、海外にあってもそれは日本の富なのである。いざとなったら、日本に戻すことが可能な富である。なので、問題はない。(まあ、実際には戻らないかもしれないけど)。

もうひとつ不思議だったのは、この本は誰に対して書いているのか、ということである。どうも著者は市場で為替取引をしている人たちを対象にしているらしい。この人たちは過去の例をたくさん見ていて、こんな場合は円高になったよね、という記憶を引きずっているらしい。そのような記憶はアノマリーとか格言とか呼ばれている。思考回路のショートカットとして便利なものだが、そのような人に、過去の常識は通じませんよ、と言い聞かせるための本らしい。わしは為替取引してないし、円高円安にかんする格言はほとんど知らないけどね。

まあ、しかし、こういう本はきちんと数字で示してくれるところがありがたい。エンジニアって桁があってればOKみたいな感覚があって、おおざっぱだからね。というわけで、具体的にどのくらいの数字なのか見ていこう。

2023年度の実績では、経常収支は約+21.4兆円の黒字。内訳は貿易収支は約ー6.5兆円の赤字、サービス収支は約-3兆円の赤字、第1次所得収支は約+35兆円の黒字、第2次所得収支は約ー4.1兆円の赤字、だったそうだ。(+21.4≒ー6.5ー3+35ー4.1)

しかし推計によれば、第1次所得のうち約12.3兆円しか円に替えられなかったらしく、キャッシュフローベースの経常収支はー1.3兆円の赤字という結果だそうだ。ちなみに2022年はー10兆円と大幅な赤字だったという。というわけで、近年はキャッシュフローベースで赤字基調なので、円安になるというわけだ。

赤字の中でも、これはまずいなあ、とわしが思うものは研究開発サービス。研究開発の投資すらも日本ではされなくなって、研究開発が海外に外注されたり、海外の知的財産を買うことが多くなって、毎年数兆円の赤字を出している。わしはこの20年間、エンジニアがまったく大切にされてこなかった歴史を実感しているので怒りを感じるのだが、まあ、ここではいいや(笑)。それもいまは改善されつつある。

さらに気になるのは、海外のGAFAMに支払っているデジタル赤字。デジタルは米国が覇権を握っているのだから仕方がないという気もするが、ところがEUはデジタル分野でも黒字を維持しているという。日本とどこが違うのか気になるのだが、たぶん、EUは多くをアメリカに依存しながらも、世界的なサービスを生み出しているところなんじゃないかな。ドイツのSAPやスウェーデン(現在はルクセンブルグ)のスポティファイみたいな企業がEUに存在しているのに、日本発祥のIT企業で世界展開できている企業は、すぐには思いつかない。もしかして、システム開発富士通?(笑)

せっかくだから、今後の長期的な日本の経常収支、為替の方向を予想してみよう。わしの勝手な印象ではあるが。

貿易赤字は今後も続くであろうから、円安方向である。しかし、これまで戻ってこなかった経常収支が戻ってくるようになるだろう。ひとつは人手不足により、日本人の給与が高くなるので給料を払うために日本円に戻す分が多くなる。さらに設備投資も増えてくる。これも基本的には人手不足だからである。人手をかけずに成果をあげるための省力化投資が進むだろう。これまで日本は労働者にお金を与えずに安く働かせて、余ったお金を海外に投資するという流れだった。この方法が一番儲かったからである。しかし、それは逆転の方向に向かう。

この反転が明らかになるまでは、円安が続くだろう。わしの感覚では、現状では日本円は180円ぐらいがちょうどいいと思っている。なので、オーバーシュートするとして、200〜220円ぐらいまで円安になるかもしれない。このくらいの水準では、日本は輸出国としても十分安いと言えるから、日本からの輸出も増えるだろう。だから貿易収支も改善して、このへんで下げ止まるに違いない。

こうして効率化の方向で日本は投資が進んでいき、この技術は輸出されるようになるに違いない。きっとピカピカに効率良くなったころ、日本はまた円高に振れるだろう。その時期はおそらく2030年代前半だ。

デジタル赤字に関しては、日本は世界的なブランドを作るのは無理かもしれない。ここは日本の苦手分野だ。わしは日本は偉大なガラパゴスの状態を保つのがいいような気がする。だから、そこはあきらめよう。その代わりガラパゴス的に小さいが日本だけの技術、商品をたくさん持とう。世界的なブランドとか、プラットフォームに関しては、代わりにアメリカやシンガポールなんかの企業に投資することで我慢しよう。日本全体がソフトバンク化する、ということです。例えばリクルートインディードへの投資とかの成功例もある。

まあ、いつものとおりですが、わしは日本の将来に楽観的です。

★★★★☆

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