haru 河出書房新社 2020.5.30
読書日:2024.10.15
解離性同一性障害(いわゆる多重人格)に加えて、性同一性障害、ADHD(多動性障害)、という障害を抱えているharuさんの解離性同一性障害の実際の日常を語ってくれる本。
解離性同一性障害(多重人格)については、何冊か本を読んだことがある。ひとつは「シビル―私のなかの16人」。もうひとつは「24人のビリー・ミリガン」。シビルについては、読んだのが10代で、衝撃を受けたな。一方、ビリー・ミリガンはほとんど印象に残っていない(笑)。
まあ、それくらいの知識しかなかったわけではあるが、多重人格はそんなに珍しいものではなく、普通の人でもいくつも人格を持っていて、単にそれを使い分けているだけだという意見があり、説得力がある。
すると、そもそも人格は瞬間、瞬間で分離していて、脳があとになって、こういうのも私、ああいうのも私、といろんな自分について統合的なイメージを作っているということらしい。
これは心とか情動とかも、その時その時の即興で、脳が作っているという意見とも整合性がある。
となると、解離性同一性障害は普通の人と何が違うのか、ということになるのだが、どうもそれは記憶を引き継ぐかどうかというところにあるらしい。別人格の記憶を引き継がないと、統合は不可能だからだ。
主人格のharuはこの本にはほとんど出てこない。というか、「おわりに」にしか出てこない。なぜならharuさんは他の人格がやっていることの記憶がないからである。それどころか、haruさんは自分がやったことすらも、どんどん記憶をなくしていく。
一方で、解離性同一性障害にはよくあることだけれど、すべての人格を指導していくまとめ役のような人格がいて、その人格はほとんどの人格と話すことができ、記憶もやり取りすることができる。haruさんの場合は、洋祐という人格がいて、この人格がこの本の内容の大部分を話してくれる。他によく出てくるのは、唯一の女性の結衣さんかな。
というか、洋祐はharuさんが表に出ているときも、横にいていろいろアドバイスをくれるらしい。そうでないと、生活ができないからだ。記憶をなくしている間に何が起こったのかを話してくれるんだそうだ。もう一人いろいろお金やスケジュールの管理をしている圭一という理系の人格がいて、アドバイスをくれる。
どうもharuさんは小さいときから、精神的につらい生活を送っていたらしい。それは家族との関係だったり、自分が生物上の性の女性ではなくて男と感じるせいとか、いろいろあったらしい。
洋祐が誕生したのはharuさんが2、3歳のときだったそうだ。そのころ、おそらくつらいことがあって、洋祐という別人格を作って、行動と記憶を洋祐に押し付けたのだ。これはとてもうまくいったので、人生になにか耐えられないことがあるたびに、人格を作り出してその人格に対応を押し付けているらしい。
面白いのは、圭一が生まれた経緯だ。高校に行くときに、女子っぽいことが苦手なharuさんは、男っぽい高専に行くことにした。でも高専は当然理科系だから、理科の勉強をしなくてはいけない。ということで圭一が生まれた。(たぶん、本人は数学や理科を勉強したくなくて、ストレスだったのだろう)。圭一のおかげで、たった数か月でharuさんは理科系の科目をマスターしてしまったのだそうだ。高専に合格してからも、数学の試験になると圭一が出てきて、気がつくと数学のテストが終わっていて、しかもいい点数だったということがあったそうだ。
本人が辛いと感じると、後ろに引っ込んで、代わりの人格がサポートのために出てくる。ある意味とっても便利なんだけど、代わりに交代人格が興味があることがあると、勝手に出てこられて乗っ取られることもある。
生きづらさに悩んでいるくらいだから、haruさんは自殺未遂の経験もあって、自殺願望があるらしいけど、交代人格の皆さんが、必死にharuさんを支えているという状況らしい。
haruさんのことは、メディアや動画等でけっこういろいろ発信されている。
好書好日 13人の人格を持つharuさんインタビュー 「生きづらさ」を後ろから支えてくれた彼らと生きる
【多重人格】13人の人格と暮らす男性に1日密着してみた
この本のharuさんは、放課後等デイサービスで働いていて、社会福祉士になることを目指していたが、それから3年後の2023年の情報ではシステムエンジニアをしているらしい。
驚いたことに、トランスジェンダーのharuさんは生物的な性は女性で心は男性なのだが、パートナーは男性、つまり同性愛者なのだ。つまり、性的な部分は二重にねじれている。うーん、ややこしい。確かにこれなら、いろんな交代人格の助けが必要かも。
でも動画を見ている限りは、解離性同一障害といっても、そんなに違和感を感じない。普通の人格統合の機能をちょっと拡張しただけのように見える。人間の脳ってものすごく器用なことができるんだと不思議に思えるよね。少しばかり不便だけど。
haruさんはきっと人生を長く生きるほど、自分に素直に、生きやすくなっていくんじゃないかな。
haruさんのnoteはこちら
なお、haruさんの人格の一人は、「なんもしない人」とお友達なんだそうだ。
★★★★☆