幸田昌則 日経BP 2024.3.19
読書日:2024.8.7
日銀の異次元緩和により不動産への投資がすでにバブルの様相を呈していたが、在庫水準が増える傾向にあり、いまバブルが静かに崩壊していると主張する本。
この本には膨大な図表が載っている。これらは国土交通省、厚生労働省、日本銀行などの公的機関の情報がほとんどであり、したがって極めて信頼性が高いと言える。これらのデータをもとにして、幸田氏は極めてシンプルな結論を引き出す。つまり、現状、不動産業界はバブルの状態であり、そのバブルが徐々に崩壊する方向に進んでいるということである。
まず業界全体への資金流入であるが、不動産業界向けの貸出残高が1990年代には約50兆円の規模だったのが、現在は2倍の100兆円になっている。つまり過去最大である。
その結果、住宅価格は新築、中古ともに成約価格が上昇している。その価格はすでに一般の普通の労働者には手が届かないまでに上がっている。
事業向けには賃貸オフィスビルの供給が続いており、さらには物流施設、データセンター、ホテルなどの高水準の供給が続いている。
さらに賃貸住宅の供給も増えている。これは景気とは関係なく相続税対策なので、供給は止まらないという。
一方、在庫の方であるが、新築住宅、マンション、中古住宅、土地などの在庫が増加している。つまり不動産が売れなくなっている。値段は上がっているのに、所得が増えていないのだから当然のことと言える。
一方で富裕層やパワーカップル向けの高額の不動産市場は活況を呈しており、2極化が鮮明である。
少子高齢化しているが、高齢者の住み替え需要は現状かなり大きい。しかし、今後高齢者は亡くなり、数が減っていく方向だ。
結論として、バブル状態の不動産業界は静かに崩壊しているという。不動産は下落しつつ2極化していく。
この本は日銀の利上げ前に出版されており、2024年7月31日の利上げの影響は盛り込まれていない。利上げの結果、円相場も株価も動揺したけれど、不動産業界も低金利状態が無くなると影響は大きいだろう。
最後に今後の政府への提言が書かれている。全体として、国民の住居にかかる生涯コストを下げ、中古を含めた量よりも質の政策(とくに税制)への転換を求めている。
わしとしては、資本主義社会ではバブルはしょうがないと思う。値段が上がったり下がったりするのもしょうがない。でも1990年代のように、バブルを急激にしぼませるようなことをすると、とてつもない影響がでてしまう。だからバブルは、膨らませすぎず、急激にしぼませすぎず、適度な緩和状態にするのが大切だと思う。7月31日の利上げで世界経済が動揺したのを日銀は学んだだろう。金融正常化はとてつもなくゆっくりと行うのが正解だ。
★★★★☆