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個人投資家目線の読書録

その島のひとたちは、ひとの話をきかない 精神科医、「自殺希少地域」を行く

森川すいめい 青土社 2016.7.14
読書日:2024.7.22

精神科医の著者が、自殺が少ない地域を旅して、共通する地域の特徴を述べた本。

日本は世界的に自殺が多い国で、心のケアをする精神科医の著者は当然ながら自殺をした知り合いがいる。そんなわけで、自殺が少ない自殺希少地域があるという話を学会で聞いて、衝撃を受ける。そしてさっそくその地域を旅をして、その地域の印象を書き留めたのがこの本である。なんら学術的な本ではないのであるが、けっこう心に刺さる部分がある。

著者は、そういう地域は単純に心の優しい人たちが濃密な関係を築いてお互いにケアしあっている癒やしの空間なのだと思っていた。ところが、そうではないのである。

まず、そうした地域は、人々の交わりがあっさりしている。けれども一人ひとりがコミュニケーションを取る相手がとても多い。つまりいろんな異なる性質の人とコミュニケーションを取ることに慣れている。個人の持っているネットワークが広いので、なにか困っている人がいると、自分ができないことでも、自分のネットワークを駆使して助けてくれる。しかし関わり合うのはその困っている問題だけで、それ以上に踏み込むことはない。

たとえばこんな具合である。

著者は旅をしているときに、歯が痛くなった。前日に抜歯したときの糸が原因で化膿したのだという。大きな病院に電話をしたら、今日は診れないと言われてそれでおしまい。

やがて痛みはピークを迎えて、宿の主人に話したら、痛み止めはどうか、などとすぐできることを提案してきた。その提案内容のようなことはすでに実行していたので、役に立たなかった。ところがしばらくして、近所に知り合いの近所の歯医者が休みだけど、いるのが分かったから起こしてあげるという。さすがに恐縮して断ったが、つぎは82キロ離れた歯医者がやっていることが分かったから送っていってあげるという。それもさすがに悪いと思って、お断りした。そして町を歩いていると、町の人から、「あんた、歯の痛い人やろ」と声を掛けられる。宿の主人が周りの人に相談したので、みな知っているのだ。最後には、近所の元看護師の人に道具を借りて、自分で糸を抜いて処置できたという。

こういう地域の人は、コミュニケーション慣れしているので、世の中にいろんな人がいることを理解している。なので、自分を押し付けることはないし、逆に人から何を言われても同調することはなく、自然である。あけっぴろげで、内と外の区別もあまりない。(ただし、個人情報はすべて筒抜けである)。

著者はベジタリアンなので、食事に困ることが多いのだが、このような自殺希少地域の旅では困らなかったという。どの宿でも、そういうと柔軟に対応してくれたのだそうだ。杓子定規でなく、自分の判断で対応できる人たちが集まっているということである。

結局、著者は、問題は「対話力」なんだという。このへんは、「うつ病 隠された真実 ―逃れるための本当の方法」と内容がリンクしているように思える。

www.hetareyan.com

このような地域の特徴を、現代の都会に構築できるのだろうか。なかなか難しいように思われるが、やっぱりNPOということになるのかしら。

***メモ***
自殺希少地域の特徴はオープンダイアローグの7つの原則(自殺の少ないフィンランドで構築された考え方)に近いという。
(1)困っていたら、いま即助けなさい。(即時に助ける)
(2)人との関係は疎で多がよい。(ソーシャルネットワークの見方が大切)
(3)意思決定は、現場で行う。(柔軟かつ機動的に)
(4)できることは助ける、できないことは相談し、解決するまで付き合う。(責任所在の明確化)
(5)解決するまで付き合う(心理的つながりの連続性)
(6)「なるようになる。なるようにしかならない」という考え方を受け入れる。力まない生き方。(不確かさに耐える。寛容)
(7)相手は変えられない。変えられるのは自分。(対話主義)

★★★★☆

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