森永卓郎 三五館シンシャ 2024.3.20
読書日:2024.7.15
森永卓郎がメディアの仕事をしていて、触れてはいけないとされたジャニーズ事務所、財務省、日航機123号の墜落、について書いた本。
ジャニーズ事務所についてはBBCが報道してからいかにメディアが報道を自主規制していたかが明らかになり、財務省についてはすでに森永氏本人が「ザイム真理教」という本を出しているが、日航機123便については今回初めて書いている内容である。
これがどんな内容かというと、日航機123号の事故はボーイングの隔壁の修理ミスではなく自衛隊のミサイルあるいは標的機の追突によるものだという、驚くべきものである。これが本当なら戦後史に残る大事件である。しかもこのことを隠すために、政府はざまざまな隠蔽工作を行っているというのだ。
では森永氏はどんな根拠でこのような主張をしているのであろうか。
(1)墜落場所の特定が遅れたこと
墜落したのは18時56分で、現場が特定されたのは公式には翌日の4時39分となっている。しかし、当日の20時過ぎには山の反対側の長野県北相木村に文化放送の記者が到着して放送の第1報を行っている。また墜落現場となった長野県上野村の村長が「墜落現場は自分たちの村だ」と墜落直後に県と政府に連絡している。また「航空自衛隊から翌日の午前2時10分に現場は御巣鷹村という連絡があった」との読売新聞の報道がある。そもそも内陸部に墜落したのだからレーダーの追跡ができなかったはずがないという。それなのに公式記録では、4時39分までは分からないことになっており、不自然だという。
(2)米軍がすぐに墜落現場を特定し救援活動に入っていたが日本政府が断った(1994年のニュースステーションの報道)
当日、米軍横田基地のC−130輸送機がすぐに現場を特定し、20時半にはキャンプ座間から救援ヘリコプターが出発し、1時間後には現場に到着していたのだという。ところが救援活動は行われなかった。なぜなら、日本政府が断ったからなのだそうだ。そして帰還した米軍の兵士たちに何もしゃべるなとの指令が出された。このことはC−130輸送機の航空士だったマイケル・アントヌーチ氏が手記を残している。
これが本当なら、もっとたくさんの命が救われた可能性が高い。しかし、この衝撃の報道のあと、追従する調査報道はなぜかされなかった。
(3)『日航123便 墜落の新事実』の書評が断られた経緯
森永氏が大手新聞系雑誌の書評に青山透子氏の著書『日航機墜落の真実』の書評を載せようとしたら、青山氏の博士号の証拠がないという不可解な理由で、大幅に内容を削られたという。さらに大手新聞に今年最も感動した本として紹介しようとしたところ、最初は問題ないとされていたのに、あとから一度書評に書いた本は載せられないとの理由で掲載を断られた。雑誌やタブロイド紙はオーケーなのだが、なぜか大手新聞社系だけはだめなのだという。あまりに不可解で、大手新聞社に何らかの圧力がかかっていることを示唆しているという。
では、『日航123便 墜落の新事実』には何が書かれてあったのだろうか。この本に、日航123便は隔壁の修理の失敗ではなく、当時開発中だった陸上自衛隊のミサイルSSM−1かあるいはミサイルの標的機が尾翼に衝突した可能性があることが書いてあるのだという。それが真実だったから、大手新聞社に圧力がかかっていた、あるいは日本のメディアでありがちな忖度がされた、と森永氏は考えているのである。
あまりに衝撃的な内容であるから、にわかには信じられない。どんな根拠があるのだろうか。
根拠として123便の乗客が撮った写真をあげているという。そこにはオレンジ色の飛翔体が123便に向かっていたことが分かるという。そして、その目撃情報もあるそうだ。ミサイルならその場で日航機は破壊されるはずだが、開発中なので爆薬は積んでおらず、物理的な衝撃が加わっただけなんだそうだ。
べつの証言として、航空自衛隊百里基地の稲吉司令官が同期の友人に電話で、ミサイルの標的機を日航機にぶつけてしまったと話したのだそうだ。稲吉司令官は確認のためファントムで123便を追尾させたという。このファントムも目撃されている。
日航機に何かが衝突したという可能性はあるのだろうか。
いろいろあるが、もっとも重要なのはDFDR(フライトレコーダー)の解析結果だろう。事故時、日航123便の真後ろから異常外力が加わったことが分かっており、それは航空事故調査報告書に記載されている。何かが後ろから衝突したとすれば辻褄が合う。
これを確認するには、ボイスレコーダーを聞けばよいという。だがボイスレコーダーを管理している日航が、公開を拒否しているのだそうだ。遺族が公開をもとめて裁判を起こしたが、すでに和解金をもらっているという理由で門前払いにされている。なぜ公開を拒否しているのか。その理由は、公開されている内容が改竄されているのが分かってしまうからだという。
もし本当にミサイルや標的機が原因だとすると、政府が隠そうとする動機はあるということになる。そして実際に隠そうとしたのだという。
日航123便は事故後、横田基地に緊急着陸しようとした。許可もされていたし、そのために旋回して高度を下げようとしていた。だが着陸はしなかった。これは最後に着陸の許可が不許可になったからではないかという。横田基地に着陸したら、すべてがバレてしまうからだそうだ。
そして御巣鷹山に墜落したのだが、この場所の特定はすぐにできたはずなのになぜか遅れた。
政府がわざと遅らせたという。その理由として森永氏があげているのが、秘密部隊による証拠隠滅である。そのための時間稼ぎだったというのである。
さらに森永氏の推論は続く。
日航機の墜落からたった41日後、プラザ合意が成立し円高になった。さらに、日航機墜落から1年後には、日米半導体協議が行われ、日本の半導体産業は失速した。また外国製品のシェアを20%以上にすることが定められた。これは経済的な集団リンチに近いという。なぜこんなアメリカの要求が通ったのか。森永氏はアメリカは日航機の秘密をバラすと脅かしてこの要求を飲ませたのではないかという。
こうして日本経済は凋落したというのである。
さて皆さんはどう思われるだろうか。
わしにはどうもトンデモ論のように思える。理由は、もしも自衛隊のミサイルもしくは標的機が衝突したのだとすると、あまりにも関係者が多すぎるということだ。これだけ多くの関係者が、事故数時間内にすべての方針を理解して一致団結してことに当たることは不可能のように思える。隠そうとしても秘密が漏れてしまうのではないか。
そして日米経済交渉は自衛隊とは異なる別部門が行っており、さらに関係者が広がるから、ますます無理なように思える。
『日航123便 墜落の新事実』の書評の話はどうだろうか。日本のメディアのことだから、政府に忖度するのは得意だろうという主張も難しい。ジャニーズ事務所の場合は誰もが知っていたにも関わらず頬かむりをしていたのは明らかだ。しかし、日航123便の秘密については、誰もが知っているが頬かむりをしている、というわけではなさそうだ。政府に忖度するとしても、そもそも扱うとヤバそうだと思っていなければ難しい。わしは編集部が扱いを渋ったのは、『日航123便 墜落の新事実』はトンデモ本だと判断したからだと思う。
正直、納得するには不十分な内容である。普通なら出版を躊躇するところだろうが、がんに侵され、死を覚悟している森永さんなら、まあ許されるだろう。
注意を喚起するということなら、目的は達成されている。確認したところ、『日航123便 墜落の新事実』は販売が増えているようだし(アマゾンのレビュー数から推定)、図書館での貸し出しも増えているようだ。
★★★★☆