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ANNA アナ・ウィンター評伝

エイミー・オデル 訳・佐藤絵里 河出書房新社 2023.11.20
読書日:2024.7.18

雑誌ヴォーグの生きる伝説的な編集長アナ・ウィンターの評伝。

全身ユニクロで固めているわしはファッションにはほぼ興味はない。雑誌ヴォーグを見たこともない。だがアナ・ウィンターのことはさすがに知っている、というか映画「プラダを着た悪魔」のモデルとして知っているだけだけど。

アナの父親チャールズは、イギリスのイブニングスタンダードという新聞の編集長として成功した人物で、その娘も好きなファッション分野(というか完全にオタク)の編集者として成功を目指す。それが最初からヴォーグの編集長となることを目指していて、それまでの仕事はすべてそのための予行演習と言えるくらいに徹底して自分の目指すファッション誌を表現していく。

本の最初の3分の1はヴォーグの出版社コンデナストになんとか入るまでの奮闘、さらにはヴォーグ編集長になるまでの奮闘と言える。次の3分の1は編集長としての仕事ぶりで、雑誌を成功させるだけではなくて、単なる編集長の枠を超えてファッション業界全体を盛り上げるキーパーソンとしての活躍を描く。紙の雑誌として成功していたのは最初の10年くらいで、やがてネットの隆盛により、雑誌は冬の時代を迎える。ヴォーグも例外ではない。最後の3分の1は、アナがいち早くデジタル化に取り組み、さらには毛皮反対運動や人種多様性やパンデミックや#MeTooの時代を生き延びて、コンデナストの役員に出世するまでだ。アナの物語はいまだに進行中である。

各時代の恋や家族の話も出てくるんだけど、まあ、ほとんどどうでもいいでしょう。大手出版社に入社してキャリアウーマンとして最高の地位まで極めるという話である。

しかしですねえ、わしにはこんなふうに大企業の中で出世を目指して奮闘するというメンタリティ自体がなにか理解できないんですよね。むちゃくちゃ狭き道を歩んでいかなくちゃいけないじゃないですか。で、いくら高給をもらっていると言っても、しょせんは会社員という身分でしかないから、上には絶対逆らえないし、社内政治を繰り広げるストレスもある。同じ苦労をするのなら、わしだったら起業したほうがはるかにマシだと思うだろう。アナの生き残っていく本能といいますか、危険察知能力というのも素晴らしいんですが、こんな能力があるならやっぱり起業したほうがいいんじゃないかなあという気がするなあ。

ヴォーグ編集長という身分を生かして、イベントやパーティを主催したり、新しいブランドを応援したり、業界を盛り上げるためにフィクサー的な動きをしますが、これって有名な編集者が多かれ少なかれ目指す方向性であり、あまり意外性はないし。

まあ、一番、へーっと思った部分は、アナのオタクぶりですかね。着ている服は常に最新のもので、それを着るためにモデル級の体型を保ち(ものすごい少食で、さらにテニスで身体を鍛えている)、毎日ヘアスタイリストに髪を整えさせ、家には自動で服が移動するレーンまで備えられているそうだ。

従業員にもモデル級の体型とファッションセンスを暗黙に求め、おかげでヴォーグの編集部はかつては気楽な職場だったのに、突然社員たちは服を買ったり(スカートは絶対ミニ)、ハイヒール履いたりするようになる。そんな社員も9.11のテロのときにはさすがに身の危険を感じて、すぐに階段を駆け下りて脱出するためローヒールの靴を履いたという話が出てくる。もちろん、クビを覚悟で(笑)。テロ級の危険じゃないとローヒールを履けないというのがすごい。そしてすぐに社員をクビにするから、入れ替わりが激しく、たちまち編集部はそのようなファッションに身を固めた女性たちであふれた。

アナ自身もキャラが立ってる。朝早くに出勤するけど、その際にデスクに熱々のラテとブルーベリーベーグルがなければならないとか(ただしベーグルは食べないことが多い)、朝、出勤すると次々に要件をアシスタントに短く伝えるとか、メールは常に短く件名なしとか、なにより従業員にとっては恐怖の対象でありアナとエレベーターと絶対に一緒にならないようにするとか。

アナのアシスタントを数ヶ月しただけのローレン・ワイズバーガーが、文章が下手すぎて文章講座の受講をして、創作コースの練習の一環でアナをモデルに小説「プラダを着た悪魔」を書くと、たちまち25万ドルで売れたんだという。映画の試写会にはアナ本人も招待された。アナは面白くないと途中で退席する習慣があるが、この映画は最後まで観たんだそうだ。

わしも久々に「プラダを着た悪魔」を観てみたけど、本当にこの本で出てきたまんまなのでびっくりした。そしてこの映画はよくできている。まあ、ハリウッド脚本術のお話の作り方そのものなんだけど。

★★★★☆

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