町山智浩 新潮社 2017.11.1
読書日:2024.6.30
映画評論家の町山さんの代表作(たぶん)で、1980年代のサブカル的なカルトムービーの数々を取り上げた本。
この本は出版社を変えて何度も出版されている。2006年に洋泉社から出版され、2017年に新潮社にうつり、最新刊は2024年に朝日新聞出版から発売されている。わしが読んだのは2017年の新潮社版だが、このように出版社は変われども絶えることなく出版されているわけで、名作ということになるのであろう。
1970年代の映画は作家主義の時代だったのだそうだ。しかし、そうした作家主義の映画は陰鬱なリアリズムの世界で、お客を呼べなかった。ロッキーのヒットで、映画スタジオは再びハッピーな映画に戻っていった。作家たちは、メインロードからはじき出され低予算で異様な映画を撮り始めた。それが80年代のカルトムービーたちだ、と町山さんはいう。
まあ、それはそうなんだけど、そのうちいくつかは確かに低予算で撮られたけど、例えば「プラトーン」や「ターミネーター」は公開直後に大ヒットを飛ばしているわけで、なんかカルトという気はしないなあ。意外だったのは、「ブレードランナー」で、これは初公開のときには制作費を回収できなかったのだという。
そうなんだ。わしはブレードランナーの公開時に観に行って感激した方なので、これが一般人には当時理解されなくて、熱狂的な少数者が支持するカルトムービーとして生き残ったというのは、意外な感じ。この映画以降、未来社会の表現ががらっと変わってしまったからねえ。いろんな文化がごちゃごちゃになった、あまり清潔でない世界が増えてしまった。じつをいうとわしは原作の「電気羊はアンドロイドの夢をみるか」のファンだったので、だいぶ中身は変わっちゃったなあ、と思いながら観てたのだけれど。
このなかで本当にカルトと言えるのは、クローネンバーグかな。クローネンバーグの「ビデオドローム」はわしがかつて観たときも、これがホラーなのかSFなのか幻想映画なのかさっぱりわからなかった。この本を読んで納得したのは、クローネンバーグはすべての映画を、エロティックなポルノ映画を撮っているつもりだってこと。あまりに変態すぎるので、まるでホラー映画のように見えるんだそうだ。ホラーとしておいたほうが、ビジネス上も都合がいいので、そういうことにしているんだそうだ。
これは知らなかった。面白すぎる。そう聞くと、クローネンバーグの他の作品も納得できる。なんで「クラッシュ」みたいな映画を撮るんだろうと不思議に思っていたんだ。そうか。本人はすべてポルノ映画を撮っているつもりだったのか。しかも、じつは本人は映画についてなんの思い入れもないらしい。これも面白い。
「グレムリン」のジョー・ダンテが映画会社から危険分子扱いされて干されているというのも知らなかった。ジョー・ダンテはなんと商業映画で実験映画を作る人だったのだ。映画そのものをメタフィクション化するような作品をすぐにつくるんだそうだ。ああ、そうだねえ。アメリカ人の観客はメタフィクションは理解できないと言われているからねえ。まあ、膨大な制作費を使って実験映画的なものを作るんだから危険と思われて当然なんだけど、本人はそういう映画の作り方しか知らないんだそうだ(笑)。
まあ、こんな話が散りばめられていて、わしのような80年代に青春を過ごしたものにはたまらない評論になっております。ちなみにわしは、全作品を80年代の当時、観ていますね。
知らなかったのは、1946年の「素晴らしき哉、人生」の影響がものすごく大きいこと。これはクリスマスに必ずTV放映されるので、アメリカ人はみんな知っているんだそうだ。ちょうど「オズの魔法使い」や「十戒」のように。いろんな映画によく引用されているという。これは是非チェックしておきたいなあ。ちなみにこの映画も公開時に制作費を回収できずに、カルト化したそうだ(笑)。
****メモ*****
この評論に取り上げられた作品。
クローネンバーグ「ビデオドローム」、
ジョー・ダンテ「グレムリン」、
ジェームズ・キャメロン「ターミネーター」、
テリー・ギリアム「未来世紀ブラジル」、
ポール・ヴァーホーベン「ロボコップ」、
オリバー・ストーン「プラトーン」、
デヴィッド・リンチ「ブルーベルベット」、
リドリー・スコット「ブレードランナー」
(おまけ)
「素晴らしき哉、人生」をアマゾンプライムビデオで観た。世界を見て回って大きな仕事をすることを夢見た若者が、仕方なく生まれ故郷にとどまり、でもみんなを助けていたから最後には悪徳金持ちの攻撃を退けるというストーリーはアメリカらしいとは言える。2級天使が翼をもらおうと、自殺しようとしていた彼に、彼がもし生まれなかったら皆が不幸になっていたという別の世界を見せるというのは、なんかSF的。というか、SF作家のメンタリティってたぶんこんな程度だよね(笑)。しかし、この部分は最後に少しだけ出てきて、映画のほとんどは彼の人生を振り返るところにあるんだけど、これだけたくましいジョージ・ベイリー(ジェームズ・スチュワート)が8千ドル紛失して会社が倒産しそうになったくらいで、こんなに自暴自棄になって酒に逃げて、自殺を考えるかなあ。きっと最後の最後まで奮闘するんじゃないかと思うけど、まあ、いいや。ロッキーに引用された子供が追いかけてくるシーンがあるという話だったんだけど、それはなかったようだ。
★★★★☆