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個人投資家目線の読書録

妻の実家のとうふ店を400億円企業にした元営業マンの話

山中浩之 日経BP 2023.10.23
読書日:2024.6.24

差別化が難しく地元密着の企業が多い豆腐産業で、妻の実家のとうふ店に就職し業界No.1の400億円企業、相模屋を作り上げた、ガンダム語を使う異色の経営者、鳥越淳司さんの話。

わしが相模屋のことを知ったのは、やっぱりザク豆腐の発売だろう。まあ、実際に商品を見たことはないのだが、ずいぶん話題になったので、その存在だけは知っているというくらいだ。

ザク豆腐の発売は2012年のことで、それから12年経ったわけだが、その時、売上130億円くらいだったのが、いまでは400億円企業である。むちゃくちゃ成長したのである。豆腐の市場規模は5〜6000億円ぐらいらしい。相模屋は10%弱の占有率だが、それでも業界No.1である。

どうして巨大豆腐企業が発生しないのかというと、単純に豆腐は日持ちがしないからだそうだ。作ったらすぐに売りきらなくてはいけない。遠くに輸送することも難しい。なので、どうしても地域密着になり、そして企業規模は大きくならないのである。

ところが、この状態が大手スーパーには悩ましかったのだそうだ。なぜなら豆腐は絶対に必要な商品なのに、全店に豆腐をまとめて納めてくれるような大きな豆腐企業がなかったから。地域ごとにばらばらに豆腐を仕入れなくてはならず、管理が大変面倒だった。

というわけで、相模屋の最初の飛躍は、2006年に第3工場を建設したことだったそうだ。その時、売上規模は30億円だったのに、40億円の投資をしたのである。よく決断したなあ、ということだけれど、鳥越さんが、チャレンジしないなんていやだ、と騒いだのだそうだ。社長の義父も投資をしたかったのだろうけど、娘婿のこの言葉で踏み切った。

しかし、この工場を運営するのは大変だったらしい。生協の人が見に来て、あなた方には運営できません、と呆れられたそうだ。
(おふざけでない。まったく問題にならぬプランです。――機動戦士ガンダム 第24話のキシリアのセリフ)

しかも一般社員の前で言われたそうだから、メンツ丸つぶれである。しかし、どうも社内はそれで奮起したようだ。しかし、悪戦苦闘の結果成功し、最新工場で日持ちも長くなって、結果、売上は100億円まで伸びたのだそうだ。
(男子の面子、それが傷つけられても勝利すればよろしい――同上)

このときまで、鳥越さんは数字の示す効率を信じていたんだそうだ。数字こそ、効率こそ正義だと。だが100億円を突破し、各地方の豆腐企業のM&Aを始めた頃、仕事が虚しくなってきたんだそうだ。
(なんの昂揚感もなく、ただむなしい自分を見つけた時、おかしくなったのです。自分に笑ったのです――映画ガンダムでシャアがキシリアに言ったセリフ)

それで数字をいわなくなり、自分の主観でビジネスを始めたんだそうだ。もちろん、社長の自分は数字をちゃんと見ているが、社員には数値目標は設定しない。数字をいい始めると、社員は豆腐ではなく、魂のないただの「白い塊」を作るようになるんだそうだ。
(地球の重力に魂を引かれた人たち――機動戦士Zガンダムに頻出するセリフ)

しかし、数値目標を設定しないと、責任はないのだから、ルーチンをするだけの何もしない人も出てくるのではないか。でもそれでいいと鳥越さんはいうのである。全員が燃えている必要はないと。、ジオングに脚を付けるなと。
ジオング――機動戦士ガンダム第42話に出てきた、脚のない未完成のモビルスーツ

新商品も80%、いや50%の出来でも良いという。そうすると、やってみようかなという社員も出るのだそうだ。相模屋はそんなに大きくない弱い会社だ。だから弱者の戦い、ランバ・ラル隊のゲリラ戦で戦うのだという。
ランバ・ラル隊――機動戦士ガンダムホワイトベースにゲリラ戦を挑んだ部隊)

一点突破のゲリラ戦で戦うのだが、うまくいかないときに傷が深まらないうちに撤退の決断をする必要がある。その決断は社長の自分にしか出来ないから、つねに前線にいなければいけないのだそうだ。風を感じ、潮目を読み、だそうだ。
(この風、この肌触りこそ戦争よ――ランバ・ラルのセリフ)

なにより豆腐の付加価値は素材ではなく作り方にある。効率性や合理性に縛られている人にはそこが見えないのだという。数値目標を設定しない所以である。
モビルスーツの性能の違いが、戦力の決定的差でないことを、教えてやる――機動戦士ガンダム第3話、シャアのセリフ)

最後の方に、鳥越さんが会議で使ったシートがそのまま載っている。これがなかなか興味深い。それによると、相模屋はいま、豆腐業界の新しいプラットフォームを作っているんだそうだ。そこに他の企業も引き入れて、業界全体を盛り上げ、日本の豆腐を守っていくことが目標なんだそうだ。

うーん。10年後に相模屋がどうなっているかどうかはわからないけど、衰退産業で革新的なことをすると圧倒的な勝利をつかみやすいから(衰退している分野では、ライバル企業は対抗して新規投資するのが難しいので、勝ちやすい)、まだまだ相模屋は伸びるかもね。

社内では本当にガンダム語で語りかけていて、社員は「またか」と思いながら聞いているんだそうです。

★★★★☆

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