宮脇昭 講談社 2013.6.1
読書日:2024.5.16
植物生態学者の宮脇昭が、スギ、ヒノキ、マツの林は偽物だと主張し、全国の植生を調査した結果からその土地にあった森を再生していく実践の様子を述べた本。
ともかく、宮脇さんは現場第一主義のひとらしい。日本中どころか世界も飛び回っていたらしい。
宮脇さんによれば、日本の山に生えているスギ、ヒノキ、マツなどは戦後の建築用の木材が足りなくなったときに植えられたもので、本物の森ではないという。その証拠に、人間が常に手入れをしないといけないような人工の森なのである。このような植物は、本来は照葉樹林の森の中での競争に負けて、条件の悪いところに生えていた木なんだそうだ。そういうわけで、これらの山も人間が手入れしないで放っておくと、そのうちに照葉樹林の森に戻るんだそうだ。しかしそれは何百年も先の話である。
そこで、逆説的だが、本来の森の木を植えてやると、そんなに待たなくても一世代でもとの森を再現することができるはずである。ここで問題なのは、その地方の本来の森の様子が分からなくなっていることである。
例えば、田舎に行くと、集落に根ざした里山が残されている。しかし里山は、集落が薪や果物を得るように作り上げた、やはり人工的なものである。そこで宮脇さんが注目しているのが、各地に存在している鎮守の森である。鎮守の森は神の森ということで、地元の人も手を入れてこなかったので、自然の森の状態に近いんだそうだ。鎮守の森の植生を参考に、植林する木をデザインする。木の種類はごちゃ混ぜにするのがよい。
植林する木は民間の造園業などの人に任せてはいけない。なぜなら、造園業の人は木を運ぶときに邪魔な根を切ってしまうからだそうだ。えー、そうなの? で、そんな木を植えても、ヒョロヒョロした木で根付かず、枯れてしまうという。
植物の命は根なので、苗木は根を育てるようにポットに入れて中が根でいっぱいになるように育てる。そして土を盛り上げたマウンドを作って水はけが良くなるようにして、そこに様々な種類の木を混ぜて植える。なぜなら水があると、根が酸素を取れないからだそうだ。なにより酸素、酸素、酸素が重要だそうです。そして瓦礫があれば、それも混ぜた方が良いという。なぜなら、そのような塊を掴んだ根のほうが強いからだそうだ。だから、地震や津波などの建物が倒壊した瓦礫だらけの土地は、そのまま瓦礫を混ぜて(ただし毒性のある金属などは取り除いて)使ったほうがいいという。2、3年は雑草取りなどが必要だが、その後はあえてそのまま放置する。すると、何も世話をしなくても、森は自然に成長していくのだ。これがいまの人工的な森との違いだ。
こういう宮脇方式は当時は異端だったという。しかし、今となっては実績がものをいう。宮脇方式で作った森は、各地でこんもりと茂った森になっている。植生も、高木から少し低い亜高木、地面に近いところに生える低木などが混在してバランスが取れている。
宮脇さんは、1960年代は研究費がなく非常に苦労しながら、1970年代にふるさとの森作りで注目された。1980年代は日本全国の植生を調べ上げ『日本植生誌』全10巻を編纂するという、他の人からは狂気としか思えないような偉業も達成した。
しかし、宮脇さんも大変だったでしょうが、宮脇さんと結婚したハルさんは本当に大変だったでしょうね。結婚して長男が生まれたあと、すぐにドイツに留学して、帰国したあとも忙しくしていて帰国したことを妻に連絡しなかったくらいだそうですから。造り酒屋の長女で、きっと実家がそれなりに裕福だったのでなんとかなったのでしょう。いつしかハルさんは諦めの境地で著者に接したそうです(笑)。
宮脇さんは、2021年に93歳で亡くなったそうです。
★★★☆☆