立花隆が1996年に東大で行った講義をまとめたもので、テイヤール・ド・シャルダン(1881−1955)の進化に対する考え方に基づいて、人類の進化の進んでいく方向を述べたもの。
未来のことに興味があるわしではあるが、なにしろ進化の話である。もしかしたら数万年後の未来のことかもしれない話だ。しかし、シャルダンによれば、わしらはすでに次の進化のとば口に立っているんだそうだ。
シャルダンによれば、生物の進化は宇宙や物質の進化と地続きである。どういうことか。
熱力学の第2法則によれば、エントロピーは増大し続け、全ては拡散して消滅してしまう運命にある。しかし、それにあらがうかのように、物質が集まり、反応し、複雑になっていくということが同時に起きている。星が誕生し、星の中で新しい元素ができ、さらにそれが集まって惑星ができ、化学反応でさまざまな分子ができ、さらに生物が誕生する。つまり、集まって複雑になっていくという方向性が厳として存在するのである。そして、シャルダンによれば、これこそが進化の原動力なのである。
集まって複雑化する方向性は、これまでは物質的なものを中心に進んだ。そしてついには生物は脳をもち、ヒトが誕生し、ヒトの個々の脳の中で精神の複雑化が進んだ(知能が発達した)。今後はこれらの個々の精神が集まって、地球規模になるという。そしてそれは精神圏(ヌースフィア)を形成するという。それは地球全体を生命が覆い尽くした生命圏(バイオスフィア)の次の段階である。ひとつの大きな精神が地球を覆うのだ。
ここで、すでに進化は個々の生物を離れて、ヒト全体で構成されるなにかになるのだという。
人類の活動はすでにグローバル化され、通信の発達により、すべての人間が結ばれた状態である。したがって、現在すでに人類は次の進化のとば口(臨界点)に立っていているのだそうだ。そして人類は個々の精神を超えて、高次の精神を形成する。それは新しい宇宙ビジョンなんだそうです。
このような統合された精神をもつ人類を、シャルダンは「ホモ・プログレッシブ」と呼ぶ。高次の精神が統合された状態に達する地点を「オメガ、Ω」と呼ぶ。こうして次の段階に進んだ人類と、先に進めない人類の分裂が起きるという。
シャルダンはイエズス会の司祭でもありまして、こうした意識の高次化された先にキリストが現れるんだそうです(笑)。
以上が、シャルダンのいう今後の人類の進化の大まかな流れなんですが、シャルダンは1950年代にすでにコンピュータに注目していまして、機械との融合も視野に入れているようです。
まあ、20世紀の中頃にこんなことを考えていた人がいるんですね。人工知能が人類を超えるシンギュラリティの概念やハレルのホモデウスの話を、立花隆ならどうコメントしたのか気になりますね。
個人的には、どうも精神がひとつにまとまるというところが不安ですね。ひとつにまとまると、多様性が失われてしまうんじゃないか、何かあったときに代替物がないじゃないか、というところが不安です。適度に分裂していて欲しいですね。
立花隆は日本人の知識人について、外国の学問について説明させると立板に水のように明快に説明できるんだけど、それであなたはどう考えるんですか、と訊くとグダグダになってしまうということを述べていて、最近、わしも日本人の本を読むことが多くなってきましたが、同じような印象を持ちますね。
もっとも、外国でも、独自の視点で物事を述べる学者は、そんなに多くはないと思いますけどね。そういう著作はまったく翻訳されないから、わしらは知らないだけで、クズみたいな本は、もちろんたくさんあるんでしょう。
★★★★☆