衣笠彰梧 KADOKAWA 2015.5.13
読書日:2024.4.24
(ネタバレはほとんどありませんが、いちおう注意)
平等とはなにか、本当の実力とはなにか、という疑問の答を得るために東京都高度育成高等学校に進学した綾小路清隆は、友達作りに苦労しながら、孤高の美少女、堀北鈴音や誰にでも気配りする櫛田桔梗らとともにDクラスに入る。この学校ではすべてがポイントに換算され、それに応じてクラスごとに毎月配給されるポイントが決定し、テストで赤点を取ると即退学というシステムだった。Dクラスは不良品の集まりと言われて、獲得ポイント0と退学者発生の危機に直面するのだが……。
ラノベはほぼ読まないのだが、これは「「若者の読書離れ」というウソ」という本で紹介されていて気になっていたものだ。まあ、アニメ化もされていることだし、それを見ればいいかと思っていたけど、原作を読むことにした。2015年発売なのに、いまだに図書館の予約が入っているような人気で、しばらく待たされたけど。ともかく累計900万部突破の大人気作なのだ。
これが気になったのは、やっぱり題名からして、「能力主義(メリトクラシー)」に関係ありそうだったから。はたしてメリトクラシーを小説にしたらこんなふうになる、という内容なのだろうか?
まあ、そうとも言えるし、そうではないとも言える内容だったかな。
メリトクラシーの社会は能力がある人が報われると考える社会だ。有能な人が報われる、というのは別に問題はないように見える。しかしこれが転じて、どんな結果に終わってもそれは本人の能力の問題、と片付けられるのがメリトクラシーの欠点だ。本人にはどうしようもないことも本人のせいにされてしまうのだから。
例えば、生まれの問題だ。親ガチャという言葉があるように、どのような家庭に生まれたかでずいぶんと違ってしまう。高収入の家庭の子供はいい学校に入ることが多いが、これはそもそも教育を受けられる資金的、時間的な余裕の影響が大きい。しかし、メリトクラシーでは、それも含めて本人の能力のせいにされて、そこで思考停止になってしまう。すべて自己責任とされるのが問題なのだ。
よい学校に入ると、収入のよい仕事に繋がる。こうしてメリトクラシーの世界では、上流階級はますます裕福になり、階級が固定化されてしまう。階級が固定化されやすいのもメリトクラシーの大きな欠点だ。
というわけで、階級の存在はメリトクラシーに必然なものと言えるかもしれない。では、逆に言うと、メリトクラシーの世界を人工的に作ろうとすると、最初から階級を作っておかないといけないのだろうか。
興味深いことに、この物語ではA組からD組があり、D組には最初から落ちこぼれ予備軍が集められている。D組の人たちに期待されるのは、おそらく他の組の生徒に対する見せしめになることだ。
すると、D組はメリトクラシー社会特有の階級という構造を、あらかじめ、人工的に作るために設けられているのだろうか。
さて、メリトクラシーでは責任はすべて個人に帰せられるはずなのだが、奇妙なことに各生徒に配られるポイントはクラス単位で決定される。そうすると、これはクラス単位のチーム戦ということになる。クラス内がまとまって協力したほうが有利なのである。しかもクラス替えはクラス単位で、つまり成績優秀者が個人として上のクラスに行くのではなく、D組がクラスでまとまってA組まで這い上がらなくてはいけない。
クラス内の生徒の協力を促すような仕組みは、どうもメリトクラシーっぽくない。それとも人々をまとめるリーダーシップも実力のうちなんだろうか。どちらかというと、物語を進める都合でそうなっているんじゃないかという気がする。結局、いろんな人々が絡み合わなければ物語は成立しないのだから、個人戦ではなかなか物語は作りにくい。
また、D組の人たちは、どうも規則を逆手に取ったある種のずる賢さ(マリーシアというのかな?)で勝ち上がっていくようだ。もしかしたら規則に従うというよりも、規則の成り立ちから疑うようなクリエイティブさが実力のうちに求められているということだろうか。
しかし、この辺の交渉もかなり教師の中で恣意的に扱われているようで、まあ、確かに世の中はなにごとも交渉次第という部分があるから、ありえない話ではないけれど、なんとなく物語における大逆転の演出の都合のようにも見える。(というか、小説なんだから当然そうなんだけど)。
こうして、物語は、実力至上主義の個人戦というよりも、なんだか階級闘争という気配を漂わせておりまして、まあ、メリトクラシーとはあんまり関係ないかな、という気がしてきました。
この辺の設定は本当にゲームそのものという感じがして、作者がゲームのシナリオ制作出身らしいから、その能力を最大限活かしたものなのでしょう。
一冊目はまだ1年生の中間試験の段階ですから、この先3年の卒業までお話は続くのでしょうが、こんな学校で学んで、なにかいいことがあるんですかねえ。(いちおういい成績で卒業すると、国から強力なサポートがあるらしいのですが、こんなのほしい?)。そして卒業する物語の最後に、はたして平等についてなにか有意義な答が出てくるのでしょうか?
うーん、続きを読むべきか? まあ、アニメでいいか(笑)。
★★★☆☆