ヘタレ投資家ヘタレイヤンの読書録

個人投資家目線の読書録

怠惰への讃歌

バートランド・ラッセル 訳・堀秀彦、柿村峻 平凡社 2009.8.10
読書日:2023.4.7

人類の生産性はすでに十分高いから、一日の労働時間は4時間で十分で、余った時間を有効に使えば豊かで幸福な人生を送れると主張する本。

まあ、実質1日2時間ほどしか働いていなかったわしとしては、この発想には全面的に賛成である。残念ながらいまはかなり働いている。昔はアイディアがいちばん重要な仕事だったが、いまやっている仕事はそれなりに誰でもできる仕事になってしまったので、そんなに怠けるわけには行かなくなってしまった。非常に残念である。たぶん1日4時間は働いている。ラッセルの主張する時間になったというわけだ。

最近、在宅勤務が多くなったせいで働いている時間が明確にカウントされるようになった。上司との会談があって、「わたしは1日中働いているわけではありませんよ」と正直に言ったら、「知ってますよ」と返された。「パソコンが稼働している時間を見ていますから」という。「目標さえ達成してくれれば、自分のペースで仕事をしていただいてかまいません」。できた上司でよかった(笑)。

最近、「週4時間だけ働く」という本を読んだが、実際そのくらいまで短縮できるのではないだろうか。わしは日本人のほとんどは、1日の半分をまともに働いていないのではないか(もしくは、無駄に忙しそうにしている)のではないかと思っている。きっと日本はブルシット・ジョブ大国だ。

この本は1935年に発表されている。日本で柿村氏により翻訳出版されたのは1958年のことである。1930年にはケインズによって、似たような発想のエッセイが発表されていて、100年後には人は仕事をしていないかもしれない、と言っている。

というわけで、このような議論がなされてから90年ぐらい経っているわけで、なぜそれが実現されないのだろうか。

たぶんラッセルの言う、「労働を徳と考え、怠惰を罪と考える」風潮が未だに幅を利かせているからだろう。これは国が国民を働かせたいと思ってそう教育しているだけで、根拠がないと思う。

いま、国の方で、国家公務員を週休3日制にしようという議論が進んでいる。ぜひ、そうしてほしい。週休3日にしても、きっとほとんど問題はないはずだ。週に3日休みならば、たいていの人はなにか新しいことを始めるだろう。まあ、副業をはじめて、やっぱり働いているのかもしれないが、それならばそれでもいい。

これ以外にも、ラッセルが雑誌等で発表した文章がまとめられているわけだが、ラッセルの文章は平易かつ非常に明解で、とても好ましい。このような文章が雑誌の記事として載っているだなんて、当時のイギリス民衆はむちゃくちゃ教養が高かったのだろうか。

とくに、ファシズムを産んだドイツの哲学について、極めて平易な言葉で解説しているものがあって、あまりのわかりやすさに驚いてしまった。それによると、1930年代当時のドイツのファシズムを産んだ源流は、カントの実践理性批判にあるのだという。カントは理性を純粋理性と実践理性に分けることを考えて、実践理性の方は道徳倫理に関係するから、偏見が含まれており、それがフィヒテに影響を与えたというのだ。

まさかカントに源流があるとは、びっくり。わしは純粋理性批判は読んだことがあるが、実践理性の方は読んでいない。読まなくてはいけないのだろうか?

**** メモ ****
各章の要約
第1章 怠惰への讃歌(上述)

第2章 「無用」の知識
 実学や科学などの「有用」な技術がまん延しているが、「無用」の知識は人生の苦しみを和らげ、大きな立場から見る知識を与えてくれる。

第3章 建築と社会問題
 建築に公共的要素を取り入れて、共同で家事や子供の養育を行うようにして、女性を家事労働から開放しようと主張。

第4章 現代版マイダス王
 財政的な知識を分かっている者が少なくて、むちゃくちゃな財政が行われているという。特にドイツに対する(第1次世界大戦の)賠償金とそれに対する対応について痛烈に批判。財政などのマクロ経済が理解されないことは、現代でも同じ。

第5章 ファシズム由来
 ドイツの観念論がどのように(1930年代当時の)ファシズムに繋がっているのかを分かりやすく解説。

第6章 前門の虎、後門の狼 共産主義ファシズム
 共産主義ファシズムのどちらにも反対。理由はどちらにも人の自由を捻じ曲げ、民主主義がないから。

第7章 社会主義の問題
 社会主義的な政策は賛成だが、革命によるのではなくて、民主主義の説得による方法で行わなければならない、と主張。

第8章 西洋文明
 西洋文明の特徴を述べているけど、残虐性について述べている部分が興味深い。

第9章 青年の冷笑
 1930年代、当時の青年が冷笑的な理由は、宗教、国家、進歩、美、真理のどれも信じられないから、だとか。ふーん。

第10章 一本調子の時代
 世界が画一化して、逆に個性を強調するようになったのだとか。でも、それで問題ないってさ。

第11章 人間対昆虫
 このままでは昆虫が生き残って勝利者になるかもしれないって。そりゃ、どう考えても、人類が滅んでも昆虫はいるでしょう。

第12章 教育と訓練
 子供を好きなように放っておくという自由な教育には反対だそうです。教師が疲れているようでもだめとか。

第13章 克己心(ストイズム)と健全な精神
 なにか不幸があっても、それに耐えて外に目的を持つように暗示的に導けって、ふーん、としか言いようがないなあ。

第14章 彗星
 街に光が溢れて、彗星はなんの魔法の力もないって。

第15章 霊魂とはなんであるか
 科学が発達して、霊魂がないどころか物質(肉体)もないということになってきて(量子力学的な話のこと)、なんとも味気ないという話。

 

★★★★☆

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