ヘタレ投資家ヘタレイヤンの読書録

個人投資家目線の読書録

私が陥った中国バブルの罠 レッド・ルーレット 中国の富・権力・腐敗・報復の内幕

デズモンド・シャム 訳・神月謙一 草思社 2022.9.5
読書日:2023.3.17

2000年代に中国で総理だった温家宝の一族に接近し、その伝手を利用して新富豪になったデズモンド・シャムとその元妻ホイットニー・デュアンだったが、習近平の腐敗一層キャンペーンの中で逆風にあい、ホイットニーは失踪してしまうという顛末を振り返った本。

この本はデズモンド・シャムが貧しかった上海から両親に連れられて香港に移住し、アメリカの大学を卒業して、中国に投資をする会社に入るまでの過程がまず述べられている。

もともとは富裕な一族だったが、祖父が中国本土に残るという最悪の決断をしたため、元資本家として差別されて厳しい環境で大きくなった。しかし、そのような中でも、中国への愛国心は根付いていて、中国の発展に寄与したいという気持ちがあって、中国に投資しようとする。

しかしながら、当時の中国では、いい投資先は中国共産党との深い関係がないとできないのだった。なぜなら、ビジネスには大小様々な部署のハンコが必要で、それらすべての関係者とグワンシと呼ばれる「関係」を築き上げないといけないからだった。もちろん中国共産党の幹部と知り合いになれれば、関係はおおいに進むのである。

そういうわけで、アメリカ流の教育を受けたデズモンドはなかなかうまくいかないのだが、そこでホイットニー・デュアンと出会って、意気投合するのである。ホイットニーは強い女性で、自分をちゃんとした仕事のパートナーとして扱ってくれる夫を求めていた。そして彼女は中国ではグワンシが大切とわかっていて、強力なグワンシを作っていたのである。それは後に首相となる温家宝の妻、張おばさんだった。

こうしてホイットニーが強力なグワンシを提供し、実務はデズモンドが担うという協力関係が成立し、二人は結婚し、本物のパートナーになる。

いろいろな投資機会を探すうちに、北京空港の隣接地帯に巨大な保税倉庫(まだ入国していないという扱いで関税がかからない倉庫)を作るというプランを思いつく。しかし、権利関係が入り組んだ複雑な土地に作ろうとしたので、なかなかうまく進まない。だが、地区の役所の大物をアメリカに接待旅行をしたとき、その大物が心臓発作を起こして倒れたのを、デズモンドが病院をうまく手配してその生命を救うという事件が起きた。すると命の恩人というわけで、関係(グワンシ)が一気に進み、事業のための全てのハンコが揃ったのである。

このとき二人は資金の面でも枯渇する一歩手前で、デズモンドは親から借金をしていたくらいなのだが、さほど期待せずに投資していた国有の保険会社が上場して大金が手に入るという幸運も手伝い、危機を脱する。こうして事業が成功すると、二人は数10億ドルの資産を持つ大富豪になる。

デズモンドたちが着々と役人と関係を築いて行き成功していくところは、臨場感たっぷりでとても面白い。もともとデズモンドは上海で育ったので、ベタベタした中国風の人間関係に慣れていたのだが、アメリカの生活でそれを忘れていた。それが、役人とベタベタな関係を築いていくうちに、それを思い出して、さらにそのような関係が心地いいと思えるようになるのだ。こうしたデズモンドの変化は興味深い。

やっと手に入れた富を使って二人はバブリーな行動に走るのだが、成金趣味そのままで、この辺はなかなか微笑ましい。

そのうち、中国ではグワンシを使わなくても仕事ができるような状況になってきたので、デズモンドはそのようなビジネスがしたいと思う。一方、ホイットニーはグワンシ構築が必要なくなると自分の存在意義が問われると思い、ますますグワンシを使ったビジネスモデルに固執し、共産党の幹部候補たちに接近していく。こうして二人の間ですれ違いが生じ、ついに離婚してしまう。

これには香港で、自由を求める学生のデモが起きているなかで、中国政府を支持する側のデモに無理やり参加させられたデズモンドが共産党に失望したという背景も関係している。

その後、習近平が台頭してくる中で、温家宝一族の膨大な資産がアメリカの新聞に報じられて、一気に温家宝の一族の立場が悪くなり、そんな中でホイットニーは突然、消息を絶ってしまうのである。そして、中国では人間が失踪してしまうことは珍しくないのである。デズモンドはアメリカにいたので助かったが、中国にいたらおそらく彼も行方が分からなくなっていただろう。

デズモンドが腐敗にまみれた共産党をあばくこの本を出版しようとしたところ、消息を絶ったホイットニーから突然電話が入り、本を出版しないようにと懇願したそうだ。なので生きていることは確認できたが、それ以降も、ホイットニーはやはり消息不明である。

開放化政策で、多少とも透明化が進んだものの、いまの中国はすっかり元の不透明な社会に戻ってしまったようだ。中国では法律がどこまでも曖昧に作られており、しかも多くの法律が過去に遡及できるようになっている。腐敗防止キャンペーンが行われても、そもそもまったく腐敗しないことは不可能な社会になっているので、誰が投獄されるかはまったく恣意的である。腐敗の証拠がない場合も、どこからともなくその証拠が出てくるような状況なのである。

こういう状況を見ると、中国の未来はあまり明るくないなあと思うんだけど、簡単に崩壊するとも思えないので、困ったことです。

★★★★☆

にほんブログ村 投資ブログへ
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ