モニーク・ヴィラ 訳・山岡万里子 英治出版 2022.12.20
読書日:2023.3.14
現代の奴隷は麻薬や負債で被害者を抵抗できなくして売春や労働を強制するもので、昔の奴隷と異なり使い捨てのローリスク・ハイリターンのビジネスであり、さらに身近で行われているのに気づかれていないという実態を報告した本。
この本では、実際に奴隷状態に陥ったものの、そこからなんとか抜け出したサバイバーの体験談を中心に書かれている。実際の体験に勝るものはないからだろう。
衝撃的なのは、そのうちの一人のマルセーラの体験談だ。彼女はコロンビアから何も知らずに、なんと日本に連れてこられて売春をさせられそうだ。彼女を奴隷化していたのはヤクザらしい。コロンビアとの間に国際的なネットワークがあるのだ。日本では、彼女は常に泣いていたが、日本の人たちは誰も彼女に関心を持たなかったという。彼女は日本人は冷たいという。こんなことがあるのだろうか。残念ながら、わしはおおいにあり得ると思ってしまった。とくに都会ではそうなってしまうだろう。
彼女はパスポートを取り上げられて、コロンビアに置いてきた娘を殺すと脅されていた。ヤクザたちは彼女を麻薬漬けにしようとしたが、賢い彼女は決して手を出さなかった。薬に手を出していたら助からなかっただろう。
奴隷化の一環として、被害者の自尊心を徹底的に破壊して、自分になんの価値もないと思わせる。マルセーラは何度も「お前は売春婦だ」と繰り返し聞かされたという。マルセーラは逃げ出してコロンビアの大使館に駆け込んだとき、大使館の人が「あなたは被害者です」と言っているのに、「いいえ、私は売春婦です」と言い続けて、自分が被害者だということがなかなか理解できなかったという。
現代の奴隷は使い捨てだが、そうすると新しい奴隷の調達はどうなっているのだろうか。マルセーラは友達に電話をかけさせられ、日本に来るように勧誘することを強要させられたという。こうして次々に奴隷が生まれている。
マルセーラは暴力を受けなかったようだが、アメリカのジェニファーの例はもっと悲惨で、繰り返し強姦されたり、暴力を受けたり、食事も満足に与えられず、シャワーすら使わせてもらえず、床で眠らさせたのだという。多くの被害者が逃げ出したあと、シャワーを使わせてくれと頼むことが多いそうだ。あるいは牛に焼印を押すように、見えるところにタトゥーを入れることも多いという。ジェニファーの場合は恋人に売られたので、精神的にもきつい。
こんな扱いを受けるので、奴隷状態から脱出しても被害者は、とても強いトラウマを抱え、PTSDを患っているのが普通だ。だが、このような奴隷状態に置かれた被害者のPTSDに関する知識がないカウンセラーがほとんどで、心理療法的な助けは得られないことが多いらしい。
そして被害者は、お金がないので万引などをして犯罪記録が残りがちだ。そうなると、せっかく逃げ出すことに成功してもまともな職を得ることができずに、もとに戻ってしまうこともある。
カタールのワールドカップで、奴隷のように外国人労働者を使って問題になったが、本書でもネパール人の男性が借金を背負ってカタールで奴隷化してしまった例が載っている。まず外国に行くのに借金をして手数料を払い、外国に行くとほとんど給料を払われないまま借金が増えていき、債務奴隷化してしまう。これなどは日本の技能実習制度に酷似している。
そして世界中で子供を使った奴隷労働が行われている。
ILOの推計によれば、奴隷状態の人数は世界で4030万人。
どうすればいいのだろうか。
例えば、奴隷化はわしらの身近なところで起きていることが多いので、若すぎる人が働いていないかとか、びくびくしている女性がいないかなどに気をつける、などという方法がある。わしはふだんぼーっと歩いているので、とても気がつくとは思えないけど(苦笑)。
興味深い例としてはクレジットカードのビッグデータを使って、不法な仕事の痕跡を見つけるという方法があるという。たとえばネイルサロンの店で客のクレジットカードによる支払いが夜中から朝までの入金が多い場合は、売春をしている可能性が高いという。
外国人が日本で奴隷になる話が書かれてあるが、日本人が日本で奴隷になる実態の方はどうなんだろうか。
★★★★☆