水木しげる 講談社文庫 2022.7.15
読書日:2023.2.27
(ネタバレあり 注意!)
水木しげるが体験したパプアニューギニア、ニューブリテン島での戦いを一兵士の視線で描いたもの。
「のんのんばあとオレ」が印象深かったので、水木さんの代表作を読んでみたもの。マンガは基本書評しないことにしてるんだけど(切りがないから)、これは書くことにした。
物語の概略は以下の通り。
ニューブリテン島に敵が上陸して、部隊が送り込まれるが敵に囲まれてしまう。中隊長はジャングルに後退してのゲリラ戦を主張するが、率いる若い田所少佐は死に場所を求めているようなところがあって、玉砕を決行する。しかし81名は生き残って聖ジョージ岬に行き着く。軍は玉砕をしたのに生き残った兵士がいてはまずいと、木戸参謀(中佐)を送り込み、全員をもう一度戦場に送って玉砕させる、というもの。
遺骨とするために、まだ生きている兵士の小指をショベルで切断するシーン、口にくわえた魚が喉の奥に入って鱗が逆さだから取れなくなり窒息死するシーンなど、印象的なシーン満載。
水木しげる自身は、負傷でラバウルで手当を受けていて、玉砕戦には加わらなかったが、多くの友を亡くしている。この戦争体験は強烈だったらしく、水木さんは1971年から10数回にわたってパプアニューギニアを訪れているのだという。
解説の足立倫行さんによれば、水木さんはこの訪問時に現地の様子をビデオに撮って大量に所有しており、このビデオを再生しながら何時間も熱心に解説するのだそうだ。なにしろ映像はどれも同じに見えるジャングルの風景が延々と続くもので、面白くもなんともなく、一方、説明している本人は次第に興奮してきて熱中するので、中座も許されず、地獄の体験になるのだそうだ。足立さんは幸運にも4時間で開放されたらしい(笑)。
水木さんは晩年、ボケてしまったあと、鬼太郎など創作したマンガの話は忘れたと言って全くしなかったが、戦争のことはずっと話していたという(日経新聞、2022.9.3)。
そういうわけで、水木しげるさんの原点には、なによりも戦争体験があるのだということがわかる。まあ確かに、戦争を体験したら、それよりも強烈な体験ってめったにないよねえ。
★★★★☆