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個人投資家目線の読書録

人口大逆転 高齢化、インフレの再来、不平等の縮小

チャールズ・グッドハート マノジ・プラダン 訳・澁谷浩 日本経済新聞社 2022.5.19
読書日:2023.1.31

今後は世界の労働年齢人口が減少するというこれまでと逆転する局面になり、労働力不足から供給が減ってインフレが起こる一方、労働力が貴重になり労働者の立場が強くなる結果、不平等は縮小すると主張する本。

人口関係の本は、書名を読めば原因も結論もそのまんまであって、それ以上でもそれ以下でもないらしい。以前「人口革命 アフリカ化する人類」を読んだときも、書名がそのまま結論でした(笑)。この本も書名がそのまま結論です。

でもまあ、少し中身をくわしく見てみましょう。

まず1990年代から最近までの30年間、何が起きたかを振り返っています。

このとき、世界経済について大きなことが2つ起こりました。ひとつは労働力の大幅な増加です。中国と、ソ連崩壊により東欧が世界経済に参加しました。もうひとつはグローバル化です。この結果、中国などが豊かになってグローバルなレベルでは不平等は減少しましたが、先進国などのローカルなレベルでは中産階級は仕事がなくなり没落する一方、グローバル化の波に乗ったエリート層は豊かになり、不平等が拡大していきました。また、圧倒的な供給力が発生したので、総じてインフレ率は低く推移しました。

つまり、ここ30年くらいは世界経済は素晴らしい時代が続いていました。ローカルな先進国内での不平等の拡大を除けばですが。

で、今後ですが、すでに中国の人口が減少しはじめていて、世界的にもインドとアフリカ以外は人口が減っていきます。しかも人口が減る以上に、高齢者の割合が増えて労働者の割合が減る、いわゆる高齢化が進む結果、労働年齢人口の減少のほうがはやく進みます。また、高齢者には介護が必要になりますが、介護関係の作業は自動化が極めて難しいので人手をかけるほかはなく、ますます生産用の労働力は減っていきます。というわけで、需要の減少よりも供給の減少のほうが大きいので、インフレが起こるという結論になります。

当然ながら、供給を担う労働者の力が強くなり、結果として労働者の地位が向上して、ローカルな先進国国内の不平等は減少する、としています。

しかし世界人口全体をみると、インドとアフリカの人口が増え続けるので、まだしばらく世界人口は増え続けます。インドとアフリカの影響はどう判断するのでしょうか。

まずインフレにより世界的に金利が高くなるので、インドとアフリカは中国が世界市場に参加したときのような低金利の恩恵を得られません。また、インドは行政の力が小さい民主主義国で、中国で共産党がやったように国家として一丸として経済発展に邁進するような体制は取れないので、中国の代わりにはならないといいます。アフリカですが、小さな国に分裂していてまとまりがないので、これも中国の代わりにならないと言います。というわけで、中国の労働人口が減った分をインドとアフリカが補うことはできない、と判断しています。

ところで、著者たちは日本の解析にまるまる一章を割いています。なぜなら、世界に先駆けて高齢化と人口減少が起きた日本で、インフレも労働者の地位向上も起きていないからです。したがって、日本ではなぜそれが起きなかったかを説明する必要があるのです。

日本で高齢化が進み労働人口が減ったとき、世界では中国や東欧の圧倒的な労働力の増加がありました。つまり労働人口が減っていたのは、日本だけだったという状況があります。この結果、日本国内では労働力が減っていましたが、世界的には労働力が増えていて、しかも安かったので、日本企業が取った行動は国内への投資ではなく海外への投資でした。海外からの安い製品の輸入の結果、インフレは起きませんでした。また労働者の仕事が減り給与も抑えられていたので、なおのことインフレは起きませんでした。一方、海外との競争に勝つために、製造業の労働者を減らしつつ従来の生産をこなすということをしたので、一人あたりの生産性は年率2%というかなりの伸びを示しました。これは相当な健闘です。しかしながら生産量全体では、そんなに増えなかったわけです。海外投資の結果は、所得収支という形で日本に戻ってきましたが、それは労働者にはわたっていません。

というわけで、日本では世界の労働力が増えるという特殊な状況下で高齢化が進んでいたので、インフレは起きませんでした。そして、日本企業は海外投資に活路を見出しましたが、今回は世界全体で労働力が不足するので、これから高齢化する国は日本のように海外に投資をして逃げるという手段は使えません。つまり日本の経験は参考にならないといいます。日本も今後は世界に逃げられないので、国内に投資を増やしていくだろうといいます。

ではこのような労働力の減少の時代では、何が起きるのでしょうか。労働者に地位が向上して賃金が高くなるので、自動化への投資が進み、極限まで効率があげられる方向になるだろうといいます。しかし、労働力のかなりが介護に取られてしまい、この分野は効率化に限界があるので、全体としてはそれほど効率は上がりません。

もうひとつは、高齢者が労働力として参加する、という可能性があります。実際、日本では高齢者の労働が増えています。これは国ごとに違うといい、年金が充実しているイタリアなどではそういうことが起こらないかもしれないといいます。日本では年金は減る方向で検討されていますが、国によっては年金を減らすと、日本よりもはるかに政治問題化しやすいので、下げるのは難しいかもしれないといいます。結局、国家の債務は増えていくということになりそうです。

そうなると、国家の破産が避けられるかどうかという話になりますが、成長ができれば債務は減りますし、さらにインフレが起きた場合も実質の債務が減少するという効果もありますので(事実上の増税に当たる)、名目の債務が増えるのは確実ですが、それが破産にいたるかどうかはなんとも言えないようです。(個人的には破産しないと思う。さらに言うと、破産してもそんなに問題ないかもしれない)。

またコロナのパンデミックに合わせて、本書には追加の章があり、コロナにより人口逆転の変化がさらに早まり、しかもパンデミックが終了したときには確実にインフレが起きると、現在の状況を正確に予言しています。

とまあ、こんなことが今後起きるようですが、読んでいると、まあそんなに大したことは起きないんじゃないかって気がするな。日本人が心配し過ぎなだけで。逆転はするのは間違いないけど、そんな状況にもきっとすぐに慣れるでしょう。こういう人口逆転の時代は日本にとってそんなに悪い時代ではないという気がするなあ。

ともあれ、仕事だけはいっぱいありそうだから、働ける間はどんなに歳をとっても働いていくだけじゃない? 働くことが辛い人もいるだろうけど、それが幸いな人もいるでしょう。それはどんな年齢でも同じです。

毎度ながら、わしは未来をつい楽観的に見てしまうんです。(笑)

★★★★☆

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