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星新一 一〇〇一話をつくった人

最相葉月 新潮社 2007.3.10
読書日:2022.12.28

星製薬の御曹司として生まれながら、SF作家に転身して、ショートショートを1001話作った星新一の評伝。

まあ、正直に言って、前半の星製薬の話は興味深くはありましたが、そんなに面白くはなかったです。やっぱりこの本を読む人は、作家としての星新一に興味があるでしょうからね。確かに、一族のドタバタが作家の人生に大きな影響を与えたことは確かでしょうから、避けられない話であることはわかりますが。

しかし驚いたのは、星新一が作家に転身して、ほとんどなんの苦もなくデビューしているように見えることですね。同人誌にいくつか作品を発表しただけで、すぐに商業誌に転載されています。

デビューするとまたたく間に人気作家になりましたが、何しろショートショートは短いから、原稿料では食べていけません。実際にそれがお金になるようになったのは文庫化されて、ロングセラーになってからだそうです。すぐに長者リストの常連になりました。新潮文庫の版数はこの評伝が発表された2007年時点でのきなみ100版を越えているようなので、いまはどのくらいになっているのか。星の作品は時代を越えているので、ずっと売れ続けるのでしょう。

星新一は晩年は新しい版になるごとに、昔の作品を現代版にバージョンアップすることに執念を燃やしていたそうですが、でもそれさえもきっと誰かが引き継いでくれるでしょう。なにしろ明治時代の作品もどんどん現代語訳される昨今なので、きっと誰かが監修して、直してくれるのでしょう。時代に廃れない作品というのはすごいです。

星新一が自分の作品を確立したと確信したのは「ボッコちゃん」を完成させたときだそうです。それぐらい画期的な作品だそうですが、わしは子供の頃、ボッコちゃんを読んだとき、これがなんで傑作と言われているのかさっぱり分かりませんでした。(いまなら少しは理解できる)。

わしが星新一の作品ですごいと思ったのは、「声の網」ですね。わしが読んだ時代にはパソコン通信があるかないかでインターネットのイの字もなかった頃ですが、ネットワークと知性という内容にしびれてしまいましたね。そのせいか、その後のインターネットで起こったことは、全く違和感がありませんでした。こんな話を1970年代にもう構想して、完成させているというのがすごすぎる。

こうした星の透徹した感性が最も現れるのは、パーティなどの席であふれる星語録なんでしょうね。なんでこんな発想ができるんだという言葉が短い言葉で発せられて、周りは爆笑になったそうです。きっと発表できないやばいものも多かったと思いますが、星語録はインターネット上にもいくつか転がっていますから、ググって見ればいいと思います。でも、その場にいた人たちがちょっと羨ましいですね。

創作方法としては、いろんな言葉をメモした紙をストックしておいて、その中から普通は繋がりのない言葉を選んで、そのなかで繋がりを考えるという落語の三題噺(客の言う適当な3つの単語からお話を作る)みたいな方法ですね。へー、意外と普通、という感じでした。

いまNHKで、星新一ショートショートがドラマ化されて、たまに放送されていますね。つい観てしまいますが、どんな時代でも使えるネタなのはさすがです。

★★★★☆

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